リョウに促されて、あたしは引き出しから髪飾りを取り出して、鏡で髪を少し整えたあとにつけてみた。鏡に映るのはいつものあたし。髪飾りに触れたときの感触は、いつもと同じだったのになぜか新鮮な気がした。
もしかしたらリョウの言葉で暗示をかけられていたのかもしれない。身体の中から不思議な気力が湧きあがってくるような気がしたの。振り返ったあたしにリョウが微笑みかけてくれる。あたしも自然に笑顔になる。
「本当。なんだか元気が出てきたみたい」
「そうか。…顔を洗いに行くぞ」
「うん」
あたしはリョウの陰に隠れるように部屋を出て、声をかけてくれようとしたシュウを避けてまずは顔を洗った。だって、泣いたあとの顔なんてあんまり見られたくなかったから。そんなあたしの態度がちょっと気になったらしいシュウと命の巫女も、あたしが顔を拭いて笑いかけるとほっとしたように笑顔で返してくれたんだ。
「ごめんなさい、心配かけちゃって」
「いや、なんかオレの方こそ迷惑をかけたみたいだね。…リョウと仲直りできた?」
そんなシュウの一言に、リョウはまたちょっとだけムッとしたような表情を見せて、命の巫女はうしろからシュウを拳固で小突いたの。
「いてっ! なにすんだよ」
「シュウはいつも一言多いの! そんなの見れば判るでしょ」
あたしはまたその2人のやり取りに笑いを誘われて、声を出して笑ってしまったの。あたしにもだんだん判ってきたみたい。こういう言い合いって、この2人にとってはコミュニケーションの1つなんだ。
「あたし、会議が始まる前に1度神殿へ行ってくるわ。よかったらここでゆっくりしていて」
「ごめんなさい。あたしがさっき神殿にいたからお仕事の邪魔しちゃって…」
その命の巫女の言葉には笑顔で首を振って、あたしは神殿へ向かった。
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