自分が何をどう落ち込んでるのか、自分でもよく判らなかった。原因の1つはもちろんリョウのことで、命の巫女とシュウが同じ宿舎の中にいることも拍車をかけているんだろう。でも1番大きな位置を占めているのは、運命の巫女とセトのことだったの。あたしは、この2人のことであたしがこれほどまでに落ち込む理由が、どうしても判らなかったんだ。
たぶん葬儀が終わった頃だった。壁の向こうの様子でリョウがきたことが判ったの。リョウは少しの間シュウや命の巫女と話していたようで、まもなくあたしの部屋のドアがノックされる。あたしが返事をしないでいたら、リョウはドアを開けて部屋に入ってきたんだ。
ベッドの脇に膝をついたリョウは、あたしの顔を覗きこんで神妙な顔をした。そして、少し頭を下げながら言った。
「さっきは悪かった。…許してくれ」
たぶん、あたしに怪我をさせてしまったことを言ってるんだろう。もしかしたらそれは、あたしと命の巫女とを間違えたことへの謝罪だったのかもしれない。それともあたしの前から逃げ出したこと? でもあたしは、それには気づいてない振りをすることに決めていた。
「大丈夫よ。ちょっと唇が切れただけだもん。びっくりしたけど、最初から怒ってなんかいないから」
言いながら、あたしは身体を起こして、片手でリョウの髪に触れた。触れた瞬間にリョウがぴくっと震えて目を細める。
「謝るのはあたしの方だよ。リョウにあんなに言われてたのに、シュウと仲良くして見せたりした。…ちょっとだけね、リョウに怒って欲しいって気持ちがあったのかもしれない。だから嬉しかったよ。強引なキスも、嫉妬の気持ちも」
悲しかった。キスも嫉妬も、ぜんぶあたしのものじゃないって判ったから。リョウがどんなに命の巫女のことを好きか、あの瞬間に判ってしまったから。
「…だったら、どうして泣くんだ…?」
リョウに言われるまで気づかなかった。自分が涙を流していることに。
「どうしてだろ。あたしにも判らない。…ねえ、リョウ、教えて。あたしのこと、好きになってくれた?」
前は判らないって言ってた。自分の気持ちが判らない、って。言いよどんだのは、きっと、嘘を重ねるがつらかったから。
「――ああ、おまえが好きだ。…ユーナ」
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