お昼になる少し前、その知らせがもたらされた。教えてくれたのはカーヤだった。カーヤは怪我人の看護と炊き出しの準備を済ませて、あたしとオミの様子を見るために戻ってきてくれたんだ。
「――倒れた木が大きくて、その下にいたからこんなに時間がかかったらしいの。ようやく掘り出されたときには、セトが運命の巫女を抱きしめるような形そのままだったそうよ。避難所を回りながら聞いた噂なんだけどね、崖が崩れた瞬間、セトは少し崖から離れた場所にいたんだって。セトの隣にいた人が助かってて、その人はセトが崖に向かって走るのを見てたの。たぶん、運命の巫女は足が悪くて動けないから、とっさに庇おうとしたんじゃないかって――」
 運命の巫女のことは守護の巫女から聞いていて、ある程度あたしの中でも覚悟ができていたはずだった。でも、カーヤが持ってきてくれた知らせは、あたしにはとても悲しいものだったの。セトは、いったいどんな気持ちで運命の巫女を庇ったんだろう。運命の巫女は、自ら危険に飛び込んできたセトを、いったいどんな思いで見つめたんだろう。
 もしも運命の巫女を助けに行かなければ、セトだけは助かってたかもしれない。そんな噂を聞いたらセトの家族はいたたまれなくなるだろう。人の寿命はあらかじめ決まっているけど、誰だって、もしもあの時、と思わずにはいられないもの。セトの家族を癒してあげなければならない。セトだけじゃなくて、運命の巫女の家族も、そのほかたくさんの家族たちも。
 昼には命の巫女とシュウが戻ってきたから、カーヤと4人で昼食を摂って、再びカーヤは看護の仕事に戻ってしまった。命の巫女とシュウはどうやら無事に仲直りできたみたいだったけど、運命の巫女のことを聞いたあたしは2人にその話を聞く気力がなかったの。もちろんリョウとのことが心に引っかかってたこともある。2人ともあたしが唇に怪我をしてる理由を訊いてきたけど、あたしは生返事しかできなくて、すぐに自分の部屋に閉じこもってしまったんだ。
 今、神殿では最後の葬儀がおこなわれている。あたしは運命の巫女の親族じゃないけど、祈りの巫女なら参列してもぜんぜんおかしくない。むしろ参列しない方が変に思われただろう。でも、あたしはベッドから起き上がる力さえなくなっていた。
 葬儀が終わってしばらくすると巫女の会議がある。それにはなんとしてでも出席しなければならなかった。でもその前にあたしは祈りを捧げなければならない。たとえどんなに落ち込んでたって、それがあたしの仕事なんだから。
次へ
扉へ
トップへ