あたしとシュウは石段の途中にいて、こんなところで祈りの巫女が談笑しているのは、本当ならけっしてほめられたことじゃなかった。でも、通る人は誰もなにも言わなかったし、あとで誰かにたしなめられるようなこともなかったの。振り返って考えると、今このときのあたしは命の巫女に見えていたんだと思う。命の巫女はまだこの村にきたばかりだったから、多少不謹慎な行動も大目に見てもらえたんだ。
 そんなこともチラッと頭をかすめたから、あたしは声をひそめるように、いつもより少しシュウに近づいていた。
「――その、なんていうか…悪かったね。オレとユーナとのことに巻き込んじゃって」
 言葉通りの意味だけじゃないんだろう。あたしの気持ちを知らずにいたことに対する謝罪も、その中には含まれていたみたい。
「気にすることないわ。好きで巻き込まれてるんだもの。それよりそろそろ覗きに行かなくていいの?」
 あたしが上を指差すと、シュウはちょっと神殿を振り仰いで、また溜息をついた。
「また未来を見てるんだって突っ撥ねられたら、今度こそオレ立ち直れないかも」
「それじゃ、こういうのはどう? 『本当の未来は今オレが見せてやる』って言うの。これで話を聞いてくれる気にならないかな?」
「いいねぇ。それもらった!」
「あとこんなのもいいかも。『オレ抜きでおまえの未来が見える訳ないだろ?』とか」
「祈りの巫女、君は殺し文句の才能があるよ――」
 そのあとも、あたしたちは少し声をひそめながら、でもときどき笑いながら、シュウが言う殺し文句をいろいろ考えていたの。自分を振った人の恋愛相談に乗ってるなんて、ちょっと変な感じだったけど、でも楽しかった。あたしはシュウに惹かれている。告白して、断られても、やっぱりあたしはシュウと一緒にいる時間をとても愛していたんだ。
「やっと判った。ユーナが傷ついた理由。オレはユーナと祈りの巫女を比べて品格がどうのとか、ぜったい言っちゃいけなかったんだ」
 その言葉にあたしが答えようとしたそのとき、あたしは不意に腕を掴まれたんだ。その力は強くて、驚いて顔を上げると、リョウがものすごく怒った顔であたしを見下ろしていたの。
 とっさに声が出せなかったあたしの腕を掴んだまま、リョウは石段を降りて巫女宿舎の方へと歩き出した。
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