シュウは、命の巫女がリョウに惹かれている気持ちを知っていたはずだった。それは2人が恋人同士になる以前からのことだったし、今でも命の巫女がリョウを見つめている視線に気づいてないはずはなかった。もちろんシュウの恋人になってくれたのだから、自分が好かれていることも自覚してたのだろう。それなのに、あたしがシュウのことを好きだって言った言葉を、シュウは信じられなかったんだ。
「…また、嘘だろ? オレなんかからかっても面白くないよ?」
「その様子じゃ気づいてなかったんだ。命の巫女は気づいてたのに」
「気づくもなにも、君にはちゃんと婚約者がいる訳だし」
「あたしには関心がなかったってことね。シュウはそのくらい命の巫女に夢中で、彼女しか見えてなかったんだ」
 あたしはからかうつもりはなかったけど、終始笑顔で話していた。冗談だって受け取られるならそれでもいい。あたしにだって、シュウが自分に関心がないことくらい判ってたもん。これは実る見込みがまったくない恋で、だからその芽は早めに摘んでしまった方がいいんだ。
 もしかしたらあたしの笑顔に何かを見つけたのかもしれない。じっとあたしを見つめていたシュウは、やがて目を伏せて言ったの。
「…ごめん。オレ、なんて言っていいのか――」
「判ってる。たとえどんなに顔が似てたって、あたしと命の巫女は違うもの。今のシュウは命の巫女以外の人なんか見る気も起きないのよ。そういう気持ちはね、ちゃんと伝わってたから、あたしも何かを期待した訳じゃないの。それにあたしには世界で1番大好きなリョウがいる訳だしね」
 シュウはますます混乱してしまったみたい。ほんと、どうして判らないんだろう。同時に2人の人に惹かれるって気持ち、シュウは1番身近な命の巫女でちゃんと見ているはずなのに。
「要するに、あたしが言いたかったのはそっちじゃなくて、命の巫女がどうしてシュウを試したのか、ってこと。命の巫女はあたしの、シュウに対する気持ちに気づいてたの。だからどうしてもあたしと自分を見分けて欲しかった。だって、シュウがただ命の巫女の外見だけを見ているような人だったら、あたしに取られる可能性だってある訳じゃない」
「…」
「今のことを話してあげるのが1番効果的だと思うわ。オレは祈りの巫女に告白されたけど断った、オレにはおまえしか見えない、って」
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