「祈りの巫女がこんなに強引だとは思わなかった」
「そう? あたし、実はリョウに無理矢理迫っちゃったのよ。初めてのキスはあたしの方からだったもん」
 シュウは絶句したままなにも答えられなかった。ずいぶん違うイメージをあたしに持ってたみたいね。さっき言ってた品格がどうとかって、単なる命の巫女への照れ隠しだと思ってたけど、実は本気でそう思ってたのかもしれない。
 命の巫女が行きそうなところはそれほど多くなかった。前にシュウと喧嘩したときには神殿の石段に座ってたって聞いてたから、あたしとシュウはまず神殿へ向かったの。石段にはいなかったからそのまま上がって扉を開ける。中には、独りぽつんと命の巫女が座っていたの。
「ユーナ…」
「出てってよ! 今あたしは未来を見てるんだから邪魔しないで!」
「未来って…。ろうそくも使わないで見える訳ないだろ?」
「あたしには見えるの! いいから出てってよ! シュウの顔なんか見たくないんだから!」
 どうやら今はそっとしておいた方がいいみたいね。まだ何か声をかけようとしているシュウの肩を叩いて合図すると、シュウも諦めたのか扉を閉ざして、そのまま石段の中ほどに腰掛けていた。
「ちょっと来るのが早すぎたってことかな?」
「そうじゃないの。だって、あれだけのことを言われたんだもん。1度くらいは突っぱねてみないと格好がつかないの。女心は複雑なのよ」
「…もしかして、祈りの巫女って恋愛の達人なのか?」
「ぜんぜん。だってあたし、自分のことはほんとにダメだもん。人のことだから少しは判るんだわ。それに、命の巫女の気持ちはあたしには判るの。…たぶん、命の巫女にもあたしの気持ちは伝わってる。だからシュウを試そうとしたんだわ」
 あたしの、シュウに惹かれてる気持ち。もしもそれに気づいてなかったら、命の巫女はシュウを試そうなんて思わなかったかもしれない。
「君の気持ち…? それとさっきのこととどういう関係があるんだ?」
「あたしはシュウのことが好きなの。…たぶん、命の巫女がリョウに惹かれるのと同じ気持ちで、あたしはシュウに惹かれてる」
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