「オレ、別にあいつの顔に惚れた訳じゃないんだぜ。1人じゃデンシャにも乗れない常識知らずだし、オレと同じ部屋に泊まったってぜんぜん気にしないぼんやりだし、時には凶暴でワガママで…いや、こういうことを言いたかったんじゃないんだけど」
しゃべっているうちに、シュウは自分が言おうとしていたことを見失ってしまったみたい。でも、それを聞いていたらあたしには判ったんだ。シュウが言った、試されるのがきつい、って意味。だってシュウは今まで、疑われる余地のない愛情を命の巫女に向けているつもりだったんだもん。それを疑われたんだったらやっぱりショックだと思うよ。
「最初からそう言ってあげればよかったのに。オレはおまえを誰とも間違えたりはしない、って」
「だから、それが伝わってないことにオレは傷ついたの。…確かにあの言い方はまずかったと思うけど」
「ちゃんと言葉で伝えてあげないといけないこともあるのよ」
「…うん。オレも判ってはいるんだ。どうやったって心を取り出して見せてやることはできないもんな」
話しながら、あたしはシュウがすごく不器用で、好きな人の前ではなかなか素直になれない人なんだ、ってことを理解していたの。あたしの前でだったらこんなに正直になれる人なのに。
同時に、胸をチクチク突き刺す小さな痛みがあることも感じていた。他の人だったらこんな痛みは感じないのに。シュウと命の巫女の絆を見せ付けられるたびに、あたしはこの痛みを感じているの。
「少しは落ち着いた? だったら命の巫女を探しに行かなくちゃ」
そろそろ潮時だと思うのよね。あんまり長く放っておいたら、ますますこじれてきちゃうはずだもん。
でもシュウは動こうとしなかったから、あたしは立ち上がって有無を言わさずシュウの襟首を掴み上げた。
「ちょっ、まって。やめろって」
「いいから動くの。今まで必死でがんばって手に入れた人なんでしょう? こんなことで失ってもいいの? 1人じゃ動けないなら、あたしにもまったく責任がない訳じゃないから付き合ってあげる。ほら、ちゃんと立って」
そう言うと、しぶしぶながらもシュウは立ち上がって、あたしのうしろをついて扉を出た。
次へ
扉へ
トップへ