「…ったく、ろくなことを考えないんだから。ユーナが始めたんだと思うけど、乗せられてる祈りの巫女も祈りの巫女だ」
そう言うと、ガタンと音を立てて立ち上がって、シュウはテーブルを回ってつかつか歩いてきたの。そして、驚くあたしたちを見たあと、命の巫女の手首を掴んで立ち上がらせたんだ。その表情でかなり怒ってるのが判る。
「おまえがユーナだ」
「…なん、で? どうして判ったの?」
「言ったろ? たとえ同じ顔でも、祈りの巫女の方が美人なんだよ。おまえとじゃ品格が違いすぎるんだよ。そんなの、ちょっと見てればすぐに判るんだ」
あたしが、まずい、って思ったときには既に遅かった。唇をゆがめてポロッと涙を落とした命の巫女は、シュウをひと睨みしたあと掴まれた手を振り払って宿舎を出て行ってしまったの!
「シュウ! すぐに追いかけて謝ってよ!」
命の巫女はシュウのあんな言葉を聞きたかったんじゃないんだ。いたずらをしたかったんでもない。ただ不安だっただけなの。シュウがちゃんと、そっくりな顔を持つあたしよりも自分の方を好きでいてくれるかどうか、って。
あたしにはその気持ちが判る。…あたしだって、同じ悩みをずっと抱え続けているから。
シュウは追いかけていかなかった。再びテーブルを回って、あたしの前に腰掛けたの。
「シュウ!」
「…あのさ、祈りの巫女。オレだってけっこうショック受けてるの。だから、頼むから、そう怒鳴らないでやってくれる?」
シュウは両手で頭を抱えたまま、できるだけ穏やかになるように言葉を選んでいるみたいだった。
「試されるのってかなりきついよ。オレはさ、どんなに祈りの巫女とユーナが似てたって、見分ける自信があるんだ。だってオレの恋人なんだぜ。…一緒に旅してる間、あいつがトツカに惹かれてるのは知ってた。初恋の相手のリョウチャンはトツカその人で、だけどオレはぜったい諦められなくて、やっとの思いでここまでこぎつけたんだ。今更オレがほかの女に目移りする訳ないじゃん」
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