「なになに? …おまえ、字ぃ下手すぎ。まともに読めねえじゃん」
「いいじゃない、ただのメモなんだから。それを見てあたしが思い出せるからいいの!」
「半分だけだろ?」
シュウのからかいにムッとした命の巫女は、シュウの手からその小さな本を取り返した。あたしは早く内容を知りたくて、おそらくそんな気持ちが命の巫女には伝わってたんだろう。もう1度本を見つめて思い出すような仕草をしたあと、あたしの顔を見上げた。
「少なくとも、あと3日は影は現われないみたい。村人の姿しか見えなかったから。でも、その先がすごく漠然としてるの。あたしの力が足りないのかもしれないけど、もしかしたらこの先はまだ未来が決まってないのかもしれないわ。…運命の巫女もそう言ってたから」
命の巫女の予言は、今まで運命の巫女がおこなってきた予言とほとんど同じ言葉だった。あたしはこの際だから、今まで不思議に思ってたことを訊いてみることにしたの。
「運命の巫女は、未来の風景が見えるんだって言ってたわ。命の巫女も風景が見えるの?」
「うん、そう。断片的だったり、あるていど時間を追って見えることもあるわ。それと、匂いや感触、雰囲気なんかも判ることがあるの。あたしが見た3日分の未来には、影が現われる兆候はなかった」
「時間は? どうしてそれが3日後の出来事だって判るの?」
「起こる出来事は現在から未来へ向かって順番に出てくるの。でも、たとえ断片的な風景でも、あたしにはそれが3日後の風景だって判るのよ。…どうしてだろう。あたしにもよく判らない」
命の巫女の言葉を聞いても、あたしにはうまくイメージすることができなかった。それはきっと人間がリグに「どうやって尻尾を動かしてるの?」って訊ねるのと同じような質問だったからだ。その能力を持っている命の巫女にはすごく自然なことで、それを持たないあたしにはまったく理解できないことなんだろう。リョウがあたしに「俺の理解を超えてる」って言ったのもきっと同じ意味だったんだ。
「ま、ともかくあと3日は安全なんだな。それが確かめられただけでもいいさ。その先はまたそのうち見えるだろうし」
シュウが会話を終わらせるようにそう言って、床に座り込んだままのあたしたちを促した。
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