4人で炊き出しの食事を摂ったあと、リョウは自分の家へと帰っていった。あたしはかなり疲れていたのだけど、命の巫女に頼まれていたから神殿まで付き合ったの。もちろんシュウも一緒で、あたしとシュウは2人並んで命の巫女の所作をうしろから見つめていた。運命の巫女の所作も基本は祈りの巫女と同じで、違うところといえばろうそくの並べ方くらいだったから、ややぎこちない仕草で聖火を移しているのをちょっとやきもきしながら見つめていたんだ。
集中するのに少し時間がかかったけど、やがて命の巫女は動きを止めて、あたしにも彼女の傍らに神様の気配が満ちているのを感じることができた。その時間は長くて、あたしもシュウもだんだん落ち着かなくなっていった。だって、あたしにとっては人の所作を見守るなんて初めてのことだったんだもん。ときどきカーヤがあたしのうしろで見守っててくれることがあったけど、それがここまで退屈なことだなんて思ってもみなかったよ。
やがて命の巫女がわずかに身じろぎしたとき、並べられた細いろうそくは既に半分の長さになっていた。
「命の巫女?」
あたしが声をかけても、命の巫女は現実に戻るのに時間がかかっているようで、振り返るまで更に長い間待たなければならなかった。
「ユーナ?」
「…シュウ、紙を持ってる?」
「え? あ、ああ」
シュウが自分のポケットを探って、やがて小さな本のようなものを広げて差し出すと、白紙のページに命の巫女は何かをしきりに書き始めたの。それはあたしには読めない古代文字で、命の巫女がボールペンを動かすのをやめるまで、あたしもシュウも邪魔をしないように黙ったまま見守り続けていた。
何行か文字を書き綴って、最後に数行ごとに仕切りのような線を引いたあと、ようやく命の巫女は顔を上げた。
「いろいろ見えたんだけど、半分くらい忘れちゃったの。やっぱりあたし運命の巫女には向いてないよ」
その命の巫女の声に場の緊張が一気に解かれて、笑顔を浮かべたシュウが命の巫女の髪をくしゃっとかき混ぜた。
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