そのとき初めてあたしは、あの時命の巫女と運命の巫女が神殿で何をしていたのか、知ることができた。シュウが書庫で過去の文献を調べているとき、運命の巫女は命の巫女に未来を見る方法を教えていたんだ。
普通、名前を持った巫女が死ぬと、残った巫女たちが会議を開いてあとを継ぐ巫女を決める。それから巫女の教育と儀式を行って、やっと正式な巫女が生まれるんだ。それにはどんなに急いだって数日はかかる。たとえば巫女が高齢で引退を表明していた場合には跡継ぎの巫女を先に決めて教育をすることもあるけど、運命の巫女はまだ若くて、誰もこんなに早くいなくなってしまうなんて思ってなかった。
次の運命の巫女が決まるまでの数日間、もしも未来を見ることができないなら、村は影によって大きな打撃を受けるだろう。運命の巫女はそれを心配してたんだ。だから命の巫女に自分が持っている技術を伝えたんだ。
命の巫女には、村の巫女のすべての力が使えることを知っていたから。
「あたし、村の巫女のことはなにも知らなかった。だからぜんぜん不思議に思わなかったの。…もしも判ってたら、運命の巫女を救うことができたかもしれないのに」
そうか、命の巫女は責任を感じてるんだ。彼女の涙には後悔がある。あたしがリョウを死なせてしまったときと同じように。
「あなたの責任じゃないわ。だって、人の寿命は決まっているの。もちろん運命の巫女にもそれは判ってた。だから、そのことで命の巫女が責任を感じていたら、逆に運命の巫女を悲しませてしまうわ」
あたしは命の巫女に話しながら、以前あたしに同じことを言った運命の巫女を重ねていた。…今なら判るよ。運命の巫女も神託の巫女も、けっして平静な気持ちでいたんじゃないんだ、ってことが。
今度はあたしが命の巫女を支える。それが巫女の強さなんだ。あたしは、運命の巫女の強さを受け継がなければいけない。
「…祈りの巫女、ろうそくを持ってる?」
「ええ、あるわ」
「食事が終わったら神殿に行くわ。…お願い、祈りの巫女。一緒についてきて」
そう言って顔を上げた命の巫女は、けっして完璧とは言えなかったけれど、既に巫女の強さを身につけていた。
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