「…おまえはよくやってくれたよ。神殿にいて俺の動きが判ったのか?」
「判るわ。神殿で祈るときは感覚を広げて神様と同化してるから。狩人たちは見分けがつかないんだけど、リョウと命の巫女たちのことはちゃんと見分けられるの。それに、リョウがあたしに話しかけてくれたのも聞こえた」
「俺の声が聞こえたのか?」
「うん、リョウの声もだし、あと命の巫女たちの声も聞こえたわ。それに、センシャたちの声も」
リョウは少し驚いたようにあたしを見つめたの。あたしは、こんなときなのに、リョウの視線にドキドキした。
「そうか。祈ってるときのおまえは俺の理解を超えてるな。それじゃ、俺がセンシャを乗っ取ったのも判ったんだな?」
「最初ちょっとびっくりしたけど、センシャが邪悪な気配を消してたから、すぐに判ったわ。…リョウがセンシャを動かせるなんて思わなかったけど」
「俺も実際にやってみるまでできるとは思ってなかった」
だったら、リョウがセンシャを乗っ取ったのは、その場の思い付きだったのかもしれない。そのときちょうど宿舎の前に辿り着いたから、あたしはそれ以上訊くことができなかった。
宿舎に戻ると、命の巫女はもう涙を流してはいなかった。あたしがオミの分の食事を先に取り分けて、部屋に運んで戻ると、命の巫女は泣き腫らした目でそれでも微笑んでくれたんだ。
「食事をありがとう。それと、こんなところで泣いたりしてごめんなさい。あたしなんかより祈りの巫女の方が何倍も悲しいのに」
「泣きたいときに場所なんか気にすることないわ。それに、悲しみの大きさは過ごした時間とは別だもの。運命の巫女のことを命の巫女が悲しむのに誰もなにも言ったりできないわ」
あたしの言葉を聞いて、命の巫女は唇を歪めた。まるで少しだけ落ち着いた悲しみの心が再び襲ってきたかのように。
「今考えれば思い当たることはあるの。…あたし、神殿で運命の巫女に未来を見るやり方を教えてもらってたの。運命の巫女は笑いながら、命の巫女にはその力があるんだから伸ばさないと、って言ってた。…たぶん彼女は、自分が死んだあとの村のことを考えてたの」
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