屋根が半分吹き飛んで、南側の壁もかなり崩れてしまった神殿の中で、あたしは祈りを捧げた。祈っている間は外の騒がしさはほとんど気にならなかった。それほど長くない祈りを終えて振り返ると、扉の前にセリが立っているのが見えたの。
「祈りは終わった?」
「ええ」
「それはよかった。また邪魔をして叩かれたくはないからね」
あたしがセリの言葉に真っ赤になってしまうと、セリはちょっといたずらっぽい感じて微笑んだ。
「ごめんなさい。さっきはあたしも気が立ってて」
「判ってる。オレが知らずに腫れ物に触れちゃったんだろ。君はふだんはとても温和な女性だからね、そんな祈りの巫女の平手打ちを受けられたことを生涯の自慢話にするよ」
あたしはセリにからかわれてることは判ったけど、それ以上なにも言葉を返せなくて、ただ下を向いていたの。
「さて、冗談はともかくとして、ひとまず神殿を出てもらえないかな。さっきから聖櫃の巫女が外で待ってるんだ」
あたしが顔を上げると、セリはちょっとまじめな顔に戻っていた。
「聖櫃の巫女は無事だったのね?」
「ああ。名前のある巫女だけでいえば運命の巫女以外は全員無事だよ。…運命の巫女はまだ見つかってないけど」
セリの言葉と表情は、一気にあたしの心を重くした。そんなあたしの心の変化をセリは読み取ったみたい。
「それより命の巫女たちが帰ってきてる。君の婚約者で狩人のリョウも一緒だよ。君の宿舎にいるはずだから早く会ってきたら?」
あたしは不意に立ち上がって、自分が疲れていることもほとんど感じないまま扉に飛びつくように駆け寄ったの。リョウが帰ってきてる。あたしはそれまでの心の重さを吹き飛ばしたくて、ただリョウのことだけで心を満たそうとしていたんだ。
「セリ、ありがとう。それとさっきは本当にごめんなさい」
セリに手を振られて扉を出ると、外はそろそろ日が落ちる頃で、崖下には夜の捜索に向けてかがり火が用意されているのが見えた。
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