あたしを怒鳴りつけたあのときのオミ、男の顔をしてた。あんなオミは初めて見た。オミは、カーヤに恋をしているんだ。
 カーヤはずっとオミの看病をしてくれてたんだ。オミが好きになったとしてもぜんぜんおかしくないよ。でも、あたしより2歳年上のカーヤと3歳年下のオミとでは、それほど簡単に実る恋だとは思えなかった。カーヤから見たらオミは本当に子供で、きっと弟くらいにしか思えないから。
「カーヤには1度戻るように言っておいたから、落ち着いた頃に来てくれると思うわ。夜になるかもしれないけど」
「ユーナは…? 賛成してくれるのか?」
「あたしはオミの父親でも母親でもないもの。邪魔はしないわ。それと、カーヤにはタキがいいと思ってたけど、オミがカーヤに振られるまでは仲を取り持つのもやめるね」
「ユーナ!」
 オミがカーヤに振られるってあたしが決め付けたことに、オミは怒ったみたい。それを潮にあたしは椅子を立って、片手を振りながらドアに歩いていった。
「ユーナ、どこかへ行くのか?」
「神殿よ。カーヤは無事だったけど、南側の崖が崩れてまだたくさんの人たちが生き埋めになってるの。その人の無事を祈りに行かなきゃ」
 そろそろ頼んでおいた神官の手元にはかなりの人数の名前が集まっていることだろう。それが生き埋めになった人たちのすべてじゃなかったとしても。
「午前中ずっと怪我で寝込んでたじゃないか! そんな身体でもやらなきゃならないことなのか?」
「オミにとってカーヤが大切なように、生き埋めになってる人たちを大切に思う人たちもいるのよ。あたしの力なんか微々たるものでしかないけど、求められているうちは祈るわ。それがこの村の祈りの巫女の仕事なんだから」
 オミは納得したようには見えなかったけど、あたしはもう1度微笑んで、オミの部屋をあとにした。祈りの準備をして崖下で神官から名前が書かれた紙を受け取る。その中にはたくさんの人たちの名前と、そのうちいくつかを線で消した跡があった。
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