運命の巫女は未来を見る。ただし、見える未来は、自分が生きている間のものだけ。
だから、未来が見えなくなった時、運命の巫女は自分の死期を悟るんだ。――最後に運命の巫女に会ったときの笑顔と明るい声を思い出す。神殿の扉の前であたしの身体を気遣ってくれた。あの時既に、運命の巫女は自分が死ぬことを知っていたんだ。
あたしにはなにもできない。それ以上守護の巫女の邪魔をすることもできなくて、あたしはふらふらしながら自分の宿舎へと戻っていった。守護の巫女が何も感じてない訳ない。だって守護の巫女と運命の巫女は親友だったんだもん。
人波をかき分けてようやく宿舎に辿り着く。扉を開けると同時に中でガタンと音がしたの。音の方に目を向けると、オミが廊下にうずくまるように倒れていたんだ。
「オミ!」
あたしはすぐに駆け寄ってオミの背中に手をかけた。どうしたの? オミはまだ動けなかったはずなのに。
「ユーナ、カーヤは! …カーヤはどうしたんだよ!」
苦しそうに胸を押さえながら搾り出すように言った。あたしは周りを見回したけど、カーヤの姿は見えない。
「ここにはいないわ」
「そんなこと判ってるよ! さっきすごい音がしただろ。悲鳴も聞こえた。壁の向こうで誰かが生き埋めになったって…。ユーナ! カーヤは無事なのか? どうして帰ってこないんだよ!」
あたしの肩を手がかりにようやく身体を起こしたオミは、そのままあたしの両肩をきつく掴んで怒鳴ったの。オミの目は真剣そのもので少しの余裕もなかった。…オミ、あなた、カーヤのことが心配でここまで這ってきたの…?
「あたしにもはっきりしたことは判らないの。でも守護の巫女はなにも言ってなかったから――」
「もういいよ! 自分で確かめに行く」
そう言って再び立ち上がろうとしたオミは胸を押さえて崩れ落ちる。守護の巫女はあたしにカーヤのことは何も言わなかった。もしも死んでいたり、生き埋めになったことが判っていたなら話してくれてただろう。でもそれだけでは無事だって証明にはならない。
「判った。あたしが確かめてくる。オミはここにいて」
オミの両手を引き離しながら言い聞かせるように握り締めて、あたしは再び宿舎を飛び出していった。
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