次に目を覚ましたとき、あたしは1人だった。神殿の中、あたしの身体は祈りを捧げていた場所からかなり扉に近いあたりに移動していた。壊れた天井から差し込む光の角度からもあれからそれほど時間が経っていないことがうかがえる。周囲の様子を見ながら身体を起こすと、神殿の外からたくさんの人の気配と声が飛び込んでくる。その声は悲鳴ではなくなっていたけれど、だからといって穏やかなものではけっしてなかった。
こんなところに独りで置いておかれたことにちょっとびっくりした。だってこういうとき、いつもなら誰かしら傍にいてくれたり、知らない間にベッドに運ばれていたりしたから。セリはあたしに叩かれて怒っちゃったのかもしれない。そう思ってちょっとだけムッとしかけたんだけど、不意に気づいてあたしは勢いよく立ち上がっていた。
神殿の扉を開けて、目に飛び込んできた光景に呆然と立ち尽くした。――地獄、だった。
神殿前広場は避難所が立ち並んでかなり狭くなっていたのだけど、今はその狭い場所を埋め尽くすほどに人の亡骸が並べられていた。その間を忙しく立ち働くのは神官よりも村人の方が多くて、彼らの動きを追って視線を左に移動させると、南側の崖が崩れていることが見て取れたの。崩れた大量の土砂は聖櫃の巫女の宿舎を完全に押し流していた。その土砂の周りにはたくさんの男たちがいて、互いに声を掛け合いながら生き埋めになった人たちを救出していたんだ。
シュホウが直撃したあの時、神殿の狭い敷地の中にひしめくように、村人が避難していた。動きが取れないほどじゃないけれど、あんなに大量の土砂が崩れたのなら生き埋めになった人もかなり多かったはず。…セリがあたしにかまっていられなくても仕方がないよ。自分の利己的な考えを恥じ入りつつ、あたしはようやく守護の巫女を見つけて、無事な姿に幾分ほっとしながら石段を降りて近づいていった。
厳しい表情で周りに指示を与えていた守護の巫女に声をかけると、あたしに気づいて振り返ってくれた。
「祈りの巫女、気がついたのね。無事でよかったわ」
「ええ、守護の巫女も」
「命の巫女たちはまだ帰ってないわ。でも影はすべて撃退できたようよ。祈りの巫女宿舎は無事のようだからあなたもゆっくり休んで頂戴。今日はもう影も襲っては来ないだろうし、今のあなたの仕事は明日に備えて身体を休めることだけだから」
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