放たれたシュホウは西側に出遅れていた1体のセンシャをかすめて南の森に吸い込まれた。そのとき初めて気がついたの。リョウが取り付いたセンシャが、生きてはいても既に邪悪な気配を消しているということに。
 ――リョウ、センシャを乗っ取ったの?
 ――ああ、らしいな。すげえよあいつ。…リョウ! 90シキの弱点はシュホウの下だ! そこなら一撃で倒せる!
 ――叫んだって聞こえないよ。それよりシュウ、間違ってあのセンシャを攻撃しないでよ。
 ――判ってるよ。オレたちは東へ回るぞ。
 聞こえてきた命の巫女とシュウとの会話で、あたしにもリョウの本当の狙いが理解できていた。リョウはセンシャを倒せるのがセンシャのシュホウだけだと知って、その1つを味方につけることにしたんだ。でも今リョウが放ったシュホウは目標からわずかに外れていた。あたしはシュウが言ってたセンシャの弱点をリョウに伝えようと思ったけど、さっきあたしの声がリョウに伝わったと思ったのはどうやら錯覚だったみたいで、そのあとリョウがあたしの心の声に答えてくれることはなかった。
 リョウが狙っているセンシャがリョウに向かっていく。たぶん1体のセンシャがリョウに乗っ取られたことはほかのセンシャにも伝わってるんだ。あたしはそのセンシャを止めるために祈りを捧げた。リョウが乗っ取ったセンシャがほかのセンシャに攻撃されたら、リョウは間違いなく死んじゃうから。
 あたしの、リョウを助けたいという想い。あたし自身の心の叫び。その強い祈りでなければセンシャを止めることはできない。たとえそれがあたしの心を穢していく行為だったとしても、迷いはなかった。
 ――祈リノ巫女ノ匂イヲ消セ
 センシャを操る邪悪な声が割り込んでくる。あたしがあなたに対して何をしたのかなんて知らない。だけど、あなたにあたしのリョウを消させたりなんかぜったいにしない!
 センシャが動きを止めたとき、リョウのシュホウがセンシャに向かって放たれた。
 そしてその次の瞬間、あたしはいきなり強い衝撃を受けて、意識は強引に神殿の身体へと引き戻されていたんだ。
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