リョウが死んだ夜、あたしはこの神殿でリョウを殺したブルドーザの気配を感じた。父さまと母さまが死んだときも。だけど、今あたしが感じている邪悪は、そのときとは比べ物にならないくらい強い気配だった。
 1つの影があの時現われたすべての影を合わせたよりはるかに強い気配を発しているのに、西の森から現われる影は1つじゃなかったの。2体、3体と次々に姿を現す。それらが放つ臭気は思わず気をそらせていなければ耐えられないほど強力だった。
 出てきているのはセンシャだ。1度その姿を見て感じていたあたしには判る。続々と送り込まれてくるセンシャの進攻を止めるようにその名前を唱え続ける。神様に伝える恐怖の感情が、果たして自分のものなのかそれとも村に残る狩人たちのものなのか判らなくなる。
 ――お願い、もうこれ以上出てこないで! 神様お願いします。これ以上のセンシャを村に入れないでください!
 あたしの祈りは届かなかった。センシャの数は増え続けて、光の輪が少しだけ力を弱めたときには既に6体のセンシャが西の森にひしめいていたんだ。
 西の森の入口で阻まれていたセンシャたちは、おそらくシュホウで道を切り開いたのだろう。しばらくすると村のあちこちへと徐々に散らばり始めた。もちろんあたしはずっと祈り続けていたよ。だけどあたしの祈りはまったく通じなかったんだ。6体は村の西から東へと歩みを進めていく。シュホウで村を破壊しながら。
 リョウたちの気配も動き始めていた。北へ向かったセンシャの動きを見て岩場から走ってくるのはリョウの気配。命の巫女とシュウは南側を通ってきたセンシャの動きにあわせている。迷ってる暇なんかなかった。
 あたしはリョウが目指しているセンシャに向けて祈りの力を注いだ。止まって! あたしはリョウを失いたくないの!
 そのとき、まるで奇跡のように、センシャの動きが止まったんだ。
 ――いいぞ、そのまま動きを止めてろ!
 いきなり頭の中にその声が響いていた。一瞬何が起こったのか判らなかった。でもすぐに察することができたの。あたしは以前同じように影の声を聞いた。今響いてきたのは、村でセンシャと戦っているリョウの声なんだ、って。
 その奇跡を喜ぶ余裕もなく、あたしは必死に祈りの力をセンシャに注ぎ続けていた。
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