扉の外にはたくさんの人の気配が満ちていて、村人のほとんどがこの神殿の周りに集まっていることが判った。祈りにひと区切りつけたあたしは立ち上がって、様子を知るために神殿の扉をほんの少し開いたの。いきなり顔を出して騒ぎになるといけないから、扉の隙間から注意深く覗いてみる。すると、気配に気づいて振り返ったセリとちょうど目が合ったんだ。
セリは優しい表情で微笑んで、黙ったまま扉を開けて入ろうとしてくる。あたしが扉から少し離れると、セリは自分が通れるだけの隙間を作って素早く滑り込んだあと、音を立てずに扉を閉ざしたの。
「やあ、祈りの巫女、お疲れさま」
セリはタキよりもいくつか年上で独身の神官だった。守護の巫女付きの神官の中では1番若くて、確か命の巫女が最初に神殿に現われたときにも、あたしたちと一緒にいてくれたんだ。
「…外は何か変わったことでもあったの?」
「いや、なにもないよ。村人の避難も滞りなく終わったし。あともう少しで影の襲撃が始まるからね、君が外に出てまた面倒なことにならないように、って守護の巫女に言われたんだ。そんな訳で宿舎には戻れないけど、まだ少し時間があるからそれまでゆっくり休むといいよ」
「ええ、ありがとう」
「時間になったら知らせに来るね。…正式に決まった訳じゃないけど、今日のところはひとまずオレが祈りの巫女に付くから。なにか希望があったら遠慮なく言ってくれる?」
「あ、はい。よろしくね、セリ」
セリはもう1度微笑んで、いったん扉を出ていった。…そうか、セリがタキの代わりになるんだ。セリは若いけど守護の巫女にすごく信頼されてる。たぶん守護の巫女はあたしに気を遣って、パートナーにできるだけ年齢の近い神官を選んでくれてるの。その気持ちはすごく嬉しかったけど、あたしはリョウがまたやきもちをやくかもしれないって、そのことを考えて少し気分が重くなっていた。
今頃リョウは影の襲撃に備えて村に降りてるはずだ。村には命の巫女とシュウ、それにランドたち狩人もいる。あたしは祈りのための道具を準備して、再びセリが訪れるまでの間、静かにその時を待っていた。
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