タキの病室を出たあたしは1度宿舎に戻って、祈りに必要な道具をそろえて神殿へ向かった。神殿前広場には今は避難所が立ち並んでいたから判らなかったんだけど、神殿の石段が見えるところまできてやっと気がついたんだ。扉の前にシュウがいる。あたしは不思議に思いながら、石段を登っていったの。
「祈りの巫女! 寝てなくて大丈夫なのか?」
「ええ。それよりこんなところで何をしてるの? 命の巫女は一緒じゃないの?」
「運命の巫女と中にいるはずなんだ。時間も時間だしそろそろ出てくる頃だと思うけど」
あたしが石段を登りきると、シュウは1度扉を振り返って、笑顔を見せていた。
「運命の巫女と命の巫女? 運命の巫女は判るけど、どうして命の巫女が神殿にいるの?」
「詳しいことはオレにも判らないんだよ。さっきまでオレは書庫の方にいたし。そういえば祈りの巫女が言ったんだよね、オレたちが使ってる文字が、この村の古代文字に似てる、って」
あたしは昨日命の巫女が書いてくれたシュウの名前を思い出してうなずいた。
「さっき確かめてきた。君が言ったとおりだよ。この村の古代文字はオレたちの世界で使ってるものと同じだ――」
そこでシュウが言葉を切ったのは、神殿の中から話し声が聞こえてきたからだった。すぐに扉が内側から開かれる。
「――それじゃ、私はこれで行くわね。…あら、祈りの巫女。身体の具合はもういいの?」
扉の外にいたあたしに気づいて、運命の巫女が声をかけてくれる。同じことを何度も訊かれてさすがに辟易していたあたしは、ちょっと苦笑いを浮かべたの。
「もともとそれほど大きな怪我じゃないのよ。大丈夫だから心配しないで」
「そう。それはよかったわ。…それにしても、本当によく似てるのね。2人で並んでいるところを見比べてもぜんぜん区別がつかないわ」
運命の巫女も以前から比べたらずいぶん元気になったみたい。声も明るくて、話しながらあたしは心からほっとしていたの。シュウは話の続きをしようとしなかったし、3人ともすぐに帰ってしまったから、あたしはすべてを先送りにして神殿でタキのために祈りを捧げた。
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