「祈りの巫女は? 君だってずいぶん怪我をしてただろう? もう動いて大丈夫なの?」
 あたしは部屋の中にあった椅子を引いてきて、タキの枕元に腰掛けていた。
「打ち身がひどかったけど、動いてればそれほど気にならないわ。寝てる方がかえって気が滅入るの。だからちょっとくらい痛くても動いてた方がいいみたい」
「そう」
 タキは一言だけ答えて、そのまま少し考え込んでしまう。あたし、タキに心配させるためにお見舞いにきたんじゃなかったのに。
「だからこれから神殿に祈りに行くの。もちろん影が村にいるときにも祈るけど、その前にタキのことを祈ろうと思って。タキの怪我が早く治るように」
「…オレの?」
「ええ。だってあたし、タキがいないとダメなんだもの。今回のことであたしは村に降りられなくなっちゃったから、また1日も早く村へ降りるためにはタキの協力が必要なの。今回死んだ狩人たちの家族の名前も伝わってこない。あたしが仕事をしたくても、タキがいなかったらぜんぜんできないの。だからタキに元気になってもらわないと本当に困るの」
「…」
「お願い、無理しないで1日でも早く怪我を治して。あたしはタキのために一生懸命祈るから、タキも身体を治すことだけ考えて。ローグの言うことを聞いて安静にしていて。タキが無理して怪我が長引いたら困るのはあたしなの」
 きっとタキは、少しでも身体が動くようになったら、すぐに無理をしてしまうだろう。なぜなら、あの時だってタキはこんな身体であたしを背負って逃げてくれたんだ。もしもタキが無理をしなければあたしは死んでたかもしれない。でも、タキがあたしを置いて1人で逃げていたら…ううん、そもそもあたしをセンシャのシュホウから庇ったりしなければ、タキはこんな大怪我をすることもなかったんだ。
「…なんか、思いっきり先手を打たれたな。…判ったよ。言う通りにする。ローグの許しが出るまでは治療に専念するよ」
 そう言ってタキが苦笑いを浮かべたから、あたしは自分の考えが間違ってなかったことを知ったんだ。
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