「ああ、帰ってやるよ。オレたちがいるより祈りの巫女と2人きりの方が傷の治りもはやいだろうからな」
「判らないぜ。かえって悪化したりして」
「余計なことを言うな! 祈りの巫女が気にするじゃないか!」
 あたしはそのやり取りにちょっとあっけに取られてたんだけど、2人がニヤニヤ笑いながら出て行こうとしたから、一言「ごめんなさい」ってだけ声をかけて見送った。振り返って見るとタキは2人の背中をにらみつけていて、でもあたしの視線に気づいてちょっとばつが悪そうな表情をしたの。タキのそんな顔を見たのは初めてで、あたしもちょっとだけ戸惑っていた。だって、あたしはタキの大人っぽい表情しか知らないから。こんな子供みたいな顔をしたタキなんて見たことがなかったんだ。
「あ、祈りの巫女、あいつらが言ったこと、気にしなくていいからね」
 タキはいつものあたしに対する態度に必死で戻ろうとしているようで、でもすぐには戻れなかったみたい。ちょっと恥ずかしそうに口ごもりながらそう言った。あたしの方もすぐには反応できなくて、タキが言った言葉を理解するのに少し時間がかかってしまったんだ。
「ええ。それは気にしてないけど。…ごめんなさい、タキ。あたしのせいでこんな大怪我させちゃって」
「それこそ祈りの巫女のせいじゃないよ。君が大怪我をしたんでなくて本当によかった。謝らなければならないのはオレの方だよ。かえって迷惑をかけることになってしまった」
 そう言ったタキはもういつものタキに戻っていて、あたしはほっとすると同時に少しだけ複雑な気分を味わった。たぶん、ふだん宿舎で過ごしているときのタキは、さっきみたいな子供っぽい表情を頻繁に見せてるんだ。あたしといるときのタキはいつも落ち着いた雰囲気でいてくれる。そんなタキにあたしはずいぶん助けられたけど、逆にタキには負担をかけていたのかもしれないから。
「あたしのことなら大丈夫。それより、背中の傷がひどいって聞いたわ。どんな具合なの?」
「自分じゃ見えないけど、かなりの範囲を縫ったらしいね。薬のおかげで痛みはないんだけど、ローグにしばらく動くなって言われて、その方がつらいかな。うつ伏せで寝るなんてふだんしたことがないから。…かなり情けない格好だろ?」
 タキの言葉は少し冗談めいていて、それだけでタキがあたしに気を遣ってくれてることは判った。
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