「そうだな。でもオレたちにもあまり時間がないし、ひとまず様子だけでも見ておこう。祈りの巫女の部屋はどこかな」
シュウと命の巫女の2人が部屋にやってくる気配を感じたから、あたしは上半身だけ起こしてなんとか体裁を整えた。遠慮がちなノックの音に返事をすると、ちょっと驚いたような表情の2人が入ってくる。どうやらあたしの大声は扉の外にまで届いてなかったみたいね。身体はまだ少し痛かったんだけど、それでもにっこり微笑んで見せると、2人はようやく緊張を解いたみたいだった。
「来てくれてありがとう。会議は終わったのね」
「ああ、今しがたね。…起きたりして大丈夫なのか? 身体は?」
「打ち身がまだ痛いけど、リョウもそれほどひどくないって言ってたから。リョウは? 一緒に来てくれなかったの?」
「午後からまた村に降りるから、1度家に戻ったみたいだよ。って、直接本人に訊いた訳じゃないんだけどね。どうやらオレはリョウに嫌われてるらしいから」
シュウが頭をかきながらそう言ったから、あたしは昨夜シュウとどういう風に別れたのかを思い出していた。
「昨日はリョウが殴ったりしてごめんなさい。シュウはあたしたちを助けてくれたのに」
「それは祈りの巫女が謝ることじゃないだろ? 自分の婚約者を囮に使われたら、たとえどんな理由があったって普通の男なら怒るよ」
「そうかもしれないけど、でも、なにも言わないでいきなり殴るなんてやっぱりリョウが悪いよ」
「んまあ、ほんとはオレが先に謝るべきだったんだろうけどね。オレ自身、悪いことをしたとは思ってないんだ。あの状況で全員が助かるためにはほかに手はなかったと思ってるから。だからあのパンチは、オレの強情さに対する当然の罰、ってことだね。気にしてないよ」
シュウはそう言って笑って、少しでもあたしの気持ちを軽くしようとしてくれたみたい。でも、その言葉と笑顔があたしの心を軽くすることはなかったの。…なんかあたし、物事の悪い面ばっかりを見ようとしてるみたい。シュウがあたしの心の傷を気遣うことができなくたって、それはあたりまえのことだったのに。
シュウが1番大切に思ってるのは命の巫女なんだ。だから必要以上にあたしを気遣ったりできない。判ってるはずなのに、あたしはますます自分に沈み込んでしまっていた。
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