カーヤは昼の炊き出しの準備があったから、それほど長い時間はいてくれなかった。あたしはまだ身体が痛くて、祈りの時間までに少しでも回復して欲しくて眠ろうとしたんだけど、そろそろ薬が切れてきたみたいでなかなか眠りにつくことができなかったんだ。ベッドの中で天井を見上げながら、自然に昨日のことを考える。夜中に目覚めてあたしはあんなに怖かった。今はそれほどでもないけど、リョウがいなかったらこんなに穏やかな気持ちになることはなかっただろう。
自分だって疲れてたのに、リョウはずっとあたしの枕元に座っていてくれた。きっとリョウは知っていたんだ。もしも夜中に目覚めたら、あたしが恐怖に震えるだろうってこと。あたし自身にはぜんぜん判ってなかったのに。もしかしたらリョウは、以前同じような体験をしたことがあるのかもしれない。
あたしの恐怖の原因は、シュウの作戦で囮になって、センシャにシュホウを向けられたこと。あの時リョウがシュウを殴ったのは、あたしを危険な目に合わせたからだけじゃなくて、あたしに恐怖の経験を植え付けたことが理由だったのかもしれない。…リョウ、あなたは優しすぎる。そんなに優しかったら勘違いしちゃうよ。リョウが好きなのは命の巫女じゃなくて、本当はあたしなのかもしれない、って。
リョウと命の巫女のことがすごく気になった。今、2人は長老宿舎で一緒に会議に出ている。命の巫女はまたリョウを見つめているの? リョウはちゃんと無視しててくれてる? それとも、あたしがいなかったらリョウは命の巫女と親しく言葉を交わしたりするの?
早くリョウに会いたいよ。リョウに会って安心したい。リョウが、今でもあたしの婚約者でいてくれるって。
――それからお昼までの間、あたしはけっきょく一睡もすることができなかった。時間が経つのがゆっくりすぎて、悶々とした気持ちを抱えてあたしはどんどん落ち込んでしまったの。やがて宿舎のまわりがにぎやかになって、扉をノックする音が聞こえてくる。とっさに起き上がれなかったあたしができるだけ大きな声で返事をすると、その声が聞こえたのかそうでなかったのか、扉が開く音とその声が飛び込んできていた。
「あれ? 誰もいないのかな? カーヤ!」
「そんなに大きな声出さない方がいいよ。祈りの巫女もオミも怪我で寝てるんだから」
聞こえてきたのは、シュウと命の巫女の声だった。
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