あたしの身体はまだ完全にほぐれた訳じゃなかったけど、震えが止まったのを確認したあと、リョウは枕もとのテーブルに手を伸ばした。背中から抱きしめたままで、手にしたそれをあたしの目の前に差し出してくれる。
「よく眠れる薬湯だそうだ。効くかどうかは知らないが、気休めくらいにはなる。飲めそうだったら飲んでおけ」
 コップに半分くらい注がれたそれはすっかり冷めてしまっていたけど、その独特の匂いには覚えがあった。リョウが死んだ日の夜にローグがくれた薬だ。あたしはリョウからコップを受け取って、慎重に飲み下していく。それでようやく少し落ち着いたみたい。
「ありがとう、リョウ。…ローグがきてくれたのね」
「ああ、おまえが眠ってる間に傷を診てくれた」
 そういえばあたし、服のまま眠ったはずなのに、いつの間にか寝巻きに着替えてる。そうして身体に注意を向けたからかな、今まで気づかなかった身体の痛みが急に意識の上にのぼってきたの。そんなあたしの微妙な変化に気がついたのか、リョウはベッドから立ち上がって、あたしをゆっくりと横たえてくれたんだ。
「打ち身と擦り傷だけでたいしたことはない。おそらく2、3日は痛いだろうけどな。この程度で済んでよかった」
「…タキは? リョウは知ってるの?」
「背中の傷を縫い合わせた。それが治れば元通りの生活ができるだろうが、しばらくは動けないだろう。今は共同宿舎にいる」
「そう。…でもよかったわ。命が助かって」
 足が伸ばせなかった。強張ったままの両足に気づいて、リョウがそっと触れてくる。ゆっくり膝を伸ばそうとしてくれるのに、あたしの足はぜんぜん動こうとしないんだ。リョウはあたしのふくらはぎからいったん手を離して、あたしの肩に触れたあと、頬に触れた。
「…おまえは、周りが思ってるほど強い人間じゃない。おまえが自分で思ってるよりも」
 あたしを覗き込んだリョウの双の目が悲しみを色濃く映している。リョウを失望させてしまったような気がして、あたしは泣きたくなった。
「弱い自分を認めればいい。…そうすれば楽になれるはずだから」
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