リョウはきっと、殴られたシュウをかばってあたしが言おうとしたことも、その時本当は何があったのかも、ほとんど判っていたんだ。
シュウはあたしを囮にした。たぶんその様子を遠くから見ていたリョウがシュウを殴ったのは、あたしを危険にさらしたことを怒ってのことだったの。そしてシュウがなにも言わなかったのは、そんなリョウの怒りを受け入れたから。でも、シュウがそうしなければあの場にいた全員の命が危険にさらされていたことも、リョウにはちゃんと判ってたんだ。
判っていたけど、リョウは悔しかった。だからシュウを殴らずにはいられなかった。…あたしだってそうだよ。自分が命の巫女と違うんだってことがたとえ理屈で判ってたって、悔しいと思う気持ちを消すことなんかできないから。
あたしはあの時、シュウが示して見せた希望を選んだ。シュウに惹かれている自分も、シュウと命の巫女の姿に胸が痛んだことも知ってる。シュウがあたしを見てくれたらいいのにって思うよ。あたしだったら、命の巫女みたいにシュウに憎まれ口ばかり言わない。シュウのことを大切にして、シュウのおかげで優しい気持ちになれる自分を愛することができる。
でもあたしは、こんな風に声を出さずに涙を流すリョウを、すごく愛しいと思うの。
あたしの醜い心に名前を付けてくれる。あたしの気持ちを判ってくれる。それはきっと、リョウが同じ気持ちを知っているからだね。リョウが命の巫女に見ているのも、あたしがシュウに見ているのも、同じ希望という名前の光なんだ。
「リョウ、あたし、リョウのそばにいたい。…だからお願い。あたしが明日もリョウの傍にいられるように、力を貸して欲しいの」
祈りが失敗したあたしは、明日の影の来襲ではきっと村へ降りることができなくなる。唯一味方になってくれるはずのタキは怪我をしてしまった。リョウが味方になってくれなかったら、あたしは明日の会議で言い負けてしまうだろう。
「俺だってな、おまえのことは心配なんだよ。怪我をしてるときくらいおとなしくしていてくれ」
「だって悔しいじゃない! あたしも汚名返上のチャンスが欲しいよ!」
「明日1日だけは諦めろ。…その代わり、次のときには留守番なんかさせないって約束するから」
――永遠にリョウの傍にいたい。叶わない願いなのは判ってたけど、それが今のあたしの真実だった。
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