リョウに抱かれたまま神殿への道を行くと、神殿からは何人もの男の人たちが降りてきて、あたしの横を通って村へと駆け戻っていく。急いだ様子であたしを見ても挨拶すらしようとしないのは、きっと北の森の近くに住んでいる人たちだ。火事は今でも東側に向かって徐々に燃え広がってる。岩場で森が途切れる西側と違って、東側にはさまざまな作業場や施設が森と接するようにあるから、関係する人たちはいち早く駆けつけようとしているみたいだった。
あたしはリョウに抱き上げられているのが恥ずかしくて、降ろして欲しいと訴えたのだけど、リョウは言うことを聞いてくれなかった。あたし自身も自分の足で立って歩ける自信がなくて、その格好のままリョウの胸に顔をうずめていたの。そうしていたらだんだん眠くなってしまったみたい。リョウがあたしの宿舎の前まで辿りついたことは判ったけど、そこに至るまでの記憶はところどころ抜けていた。
「カーヤ、すまないがドアを大きく開けてくれ」
「ユーナ! …ええ、判ったわリョウ。テーブルに気をつけて」
2人とも、あたしを起こさないようにできるだけ声をひそめてくれている。あたりの様子をぼんやりと感じることはできるのに、あたしはまだ目を開けることができなかった。やがて静かにベッドに下ろされたとき、身体のあちこちがきしむように痛んで、それでようやく意識がはっきりしてきたんだ。小さく声を上げてまぶたを開けると、リョウがあたしを覗き込んでいる視線と合った。
「リョウ…」
「起こしちまったな。このまま眠っていいぞ。今日は疲れただろう」
「…ごめんなさい。リョウも疲れたでしょう?」
あたしだって軽くないのに、こんなに遠くまで運んできてくれたんだもん。きっとリョウは腕が上がらないくらい疲れてるはずなんだ。
「ああ、疲れたな。だけど俺のことは心配しなくていい。食えそうならカーヤが食事を用意すると言ってるが、どうする?」
「…今は眠りたい」
目を閉じると、リョウはそっとあたしの頬をなでてくれた。その感触がいつか感じたリョウの優しさと重なる。あれはいつだっただろう。目を閉じたあたしのまぶたにリョウがキスをしてくれたのは。
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