次元の扉は、入口と出口が対になった、言ってみれば本当に単なる扉だった。これは1つだけでは存在しないのと同じで、2つあって初めて本来の力を発揮するの。命の巫女は、あたしの前に扉の入口を作った。そして、シュウがセンシャの前に出口の扉を作ったんだ。
あたしに向かってきたホウゲキは、次元の扉を通ってセンシャ自身に跳ね返った。センシャはいわば自分のホウゲキで死んだんだ。次元の扉は遠く離れた2つの場所を自由自在につなげてしまうことができる。だから、もしもシュウが出口を作るのが一瞬でも遅れてたとしたら、ホウゲキはそのまま通過して、あたしと命の巫女の命はなかったかもしれない。
命の巫女が意識を取り戻すよりも早く、シュウが、そしてリョウが駆け寄ってきていた。リョウは狩人たちを逃がしたあと、何人かの狩人といっしょにずっとあたしを探してくれていたみたい。倒れた命の巫女をチラッと見たあと、あたしの姿を見て複雑な表情を浮かべたの。きっと、あたしが無事なのを喜ぶべきか、あたしが傷だらけなのを心配するべきか、とっさに判らなくなっていたんだ。
でも、リョウが迷っていたのはほんの一瞬で、やがて微笑を浮かべたリョウはあたしを優しく引き寄せてくれた。
「…よかった。おまえが生きてて」
「うん。…みんながあたしを守ってくれたから」
「怪我は? 痛むんじゃないのか?」
「少しだけ。でも、タキが大怪我をしてるの。あたしは大丈夫だからタキをどうにかしてあげて」
リョウはちょっと不機嫌そうな顔を見せたけど、一刻を争うのも本当だから、あたしはタキの居場所と怪我の状態をリョウに簡単に話したの。リョウは徐々に集まってきた狩人たちにタキのことを伝えたみたい。そちらは狩人たちに任せてしまって、ようやく目を覚ました命の巫女を気遣うシュウのところへ歩いていったんだ。
そのあと、いきなりリョウがシュウの頬を拳で殴ったから、あたしは驚いてしまった。
「リョウ! いったい何を…!」
殴ったリョウは無言で、あたしはとうぜんシュウがリョウに文句を言うのだと思ったんだけど、なぜかシュウも無言でうなだれたままだったの。それがどうしてなのかあたしには判らなかった。でも、シュウには自分が殴られた理由が判っていたように思えたんだ。
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