シュウは、センシャは人間が作ったヘイキなんだ、って言った。人間が人間を殺すために作ったものなんだ、って。だから獣鬼とはぜんぜん違うんだ。リョウはそれを知っていたから、あたしに逃げるように言った。人間の力ではセンシャに勝てるはずがないから。
 でも、シュウはセンシャに勝とうって言ったの。チャンスはたった1度。確率はそれほど多くないけれど、でも勝てるんだ、って。あたしはシュウの希望を信じた。だから、リョウが言った「逃げろ」という言葉に逆らっても、戦うことを選んだんだ。
 シュウがその場から走り去ってしまうと、命の巫女は声を出して数を数え始めた。きっと2人が言ってたタイミングを合わせるために必要だったんだ。200まで数えたところであたしに合図をくれる。あたしは1つ深呼吸したあと、森の外へ飛び出していた。
 そこは昔岩盤が崩れて大きな岩がいくつもむき出しになって転がっている場所だった。あたしは1つの大きな岩の上に登ってあたりを見回してみる。かなり暗くなってきた西の森に、かがり火で照らし出されたセンシャの姿が見える。そのセンシャがあたしの姿を見つけて、上半身を回してこちらを振り返るのを、まるで夢のような気分で見つめていたの。
 長く伸びた管のようなものがシュホウ。それがあたしにまっすぐに向いて固定される。そのとき、いつの間にか森から出てきていた命の巫女が叫んだんだ。
「次元の扉、出て!」
 とつぜんあたしの目の前に光の渦が展開する。目を開けていることすら困難になるほどの光の潮流。それは、あたしが初めて神様の声を聞いた神殿で見たあの光と同じで、今西の森にある光の輪とまったく同じものだった。
 そして次の瞬間、すさまじい音がして、センシャがあたしにホウゲキを放ったのが判ったんだ。
「「キャーーー!」」
 より大きな悲鳴を上げたのはあたしと命の巫女のいったいどちらだっただろう。そのときに巻き起こった風で倒されてしまったけど、でもさっき岩場を転がされたほどの風じゃなかったんだ。あたしはすぐに身体を起こすことができたのだけど、どうやら命の巫女の方が受けた衝撃が大きかったみたい。倒れている命の巫女に駆け寄りながら西の森を見て驚いた。あのセンシャが炎を上げて燃えていたんだ。
 西の森にあった次元の扉が小さくなる。勝利を知って心の底から安堵したあたしは、その場に崩れ落ちるように座り込んでいた。
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