シュウは森の西側のはずれ、センシャが一番シュホウを打ちやすいだろう場所にあたしたちを連れて行った。あたしはまだ身体が痛かったんだけど、さっき少し休んだおかげで歩くだけならそれほど支障はないみたい。身体に大きな傷もなくて、背中に裂傷を負ったタキよりはずっと運がよかったんだ。もしかしたら最初の攻撃の瞬間、タキはあたしをかばってくれていたのかもしれない。
 気絶したタキを背負ったシュウは、わずかな間に得た情報を要領よくあたしに話してくれた。今回出てきた影があのセンシャ1体だけだったこと。センシャは西の森の穴と獣鬼の死骸に阻まれて、西の森から動いていないこと。西の森の狩人たちはリョウが逃がしたのか、今あのあたりに人影はまったく見えないこと。あたしはリョウのことがすごく心配だったけど、さすがにそれを口に出すことはしなかった。
 あたりはかなり暗くなりかけていた。岩場がすぐ近くまで見える場所へ来たとき、背中のタキを下ろしながらシュウは言った。
「祈りの巫女、さっきも言ったとおり、君には囮になってもらう。怖いと思うけど、くれぐれもユーナから離れないで。君のことはオレとユーナが必ず守るから」
 シュウの言葉にうなずいて命の巫女を見ると、彼女はほとんど真っ青な顔をして震えていた。それにはシュウも気づいたみたい。わざわざ命の巫女の傍に歩いてきて、肩を引き寄せながら言ったの。
「大丈夫だ。必ず成功する。タイミングだけ間違えないようにすればいいんだ。シュホウが狙いを定めた瞬間を外さなければ大丈夫なんだから」
「…あたしは大丈夫だもん。それよりシュウの方だよ。シュウがタイミングを間違えたらあたしと祈りの巫女は死ぬしかないんだから!」
「あのなあ、おまえ、少しは自分の恋人を信じろよ。おまえが危険なところにいるってのに肝心なところでオレがヘマやる訳ないだろ?」
「シュウはドジだもん! あたし、シュウがブランコから落っこったことちゃんと覚えてるんだから!」
「そんな昔の話を引き合いに出すな! ほら、祈りの巫女が不安に思うじゃないか!」
 あたしは命の巫女の言葉に不安をあおられたりはしなかったけど、あたしを振り返った2人にちょっとだけ微笑み返して、そのまま背を向けて少し離れたところへ歩いていったの。命の巫女がシュウに憎まれ口をきくのが、すごく不安だからなんだって判ってたから。
 そのあと、2人がどうしたのか、あたしは見てはいなかった。でも、自分の心の奥に小さな痛みがあることには気づいていたんだ。
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