「――祈りの巫女、オレの声が聞こえる?」
声に目を開けると、シュウがあたしの顔を覗き込んでいた。
「ええ、聞こえるわ。…少し静かになった?」
「ホウゲキが止んだんだ。どうやらオレたちを見失ったみたいだな。だけどシュホウを打ち尽くした訳じゃない。…山火事が近づいているの、判るかい?」
あたしは回りを見回すことができなかったけど、木々が燃えるぱちぱちという音や、きなくさい煙の匂いがかすかに漂ってくるのを感じることはできた。もしかしたら、あたしが思っているよりもずっと近くまで燃え広がっているのかもしれない。
「オレたちは森の中をずっと北西に向かって逃げてきたんだ。君も知っての通り、この森は北側と西側でいったん途切れて岩場になる。もちろんそこまで行けば焼け死ぬことはないんだけど、西の森からは丸見えになっちまうんだ。90シキセンシャのシュホウは32ハツしかないからね。おそらくセンシャはシュホウを節約して、オレたちが出て行くのを待ってるはずだ」
シュウの言葉の意味ははっきりとは判らなかったけど、影は山火事を起こしてあたしたちを燻し出すことにしたんだって、そのことだけは理解できた。いずれにしても、山火事に追いつめられたあたしたちは遠からず森を出なければならない。
「あたしが森を出るわ。シュウと命の巫女はタキを連れて別の方角へ逃れて」
たぶん、森の外まで歩くくらいなら今のあたしでも何とかなる。影が狙ってるのはあたしだ。あたしさえ殺してしまえば、影は命の巫女たちへの攻撃をやめてくれるかもしれない。
「いい覚悟だな。だけど、それで君以外の全員が助かるとは限らない。オレはホウゲキが始まってからずっとシュホウの数を数えてたんだけど、最高でもまだ5ハツ残ってるんだ。数え損ないがないとは言えないからもしかしたら3パツかもしれないけどね。どちらにしても、オレは誰か1人でも確実に死ぬような作戦に賛成することはできない。まして、このまま負けっ放しってのも嫌なんだ」
そのときシュウが見せた笑顔に、あたしはドキッとする。シュウ、あなた、どうしてこんなときに笑えるの…?
「どうせだから勝とうぜ、祈りの巫女。君のその勇気と覚悟を、今オレのために使って欲しいんだ」
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