「できない約束だろ? だったらそんなに簡単にうなずくな。…俺にだって判ってるよ。自分が無茶なことを言ってる、ってのはな」
「…」
「そんな顔されると俺の方が困る」
…あたし、今どんな顔をしてるんだろう。
リョウが何を考えてるのか、ぜんぜん判らないよ。リョウはあたしとタキが2人でいたことを怒ってるの? それとも怒ってないの? …怒ってないのかもしれない。そうだよね、リョウが好きなのはあたしじゃないんだもん。怒ってなかったとしたって、それは当然のことなんだ。
そうか。今のあたし、すごく傷ついてるんだ。リョウが苦笑いだけで許してくれたから。リョウに愛されていないって、こんなにはっきりと判ってしまったから。
「…タキとは、できるだけ2人きりにならないようにするわ。そう心がける」
あたしが口を開いたからだろう、リョウはほっとしたように笑顔を見せた。それだけでも嬉しいよ。たとえほんの少しでも、あたしのことを気遣ってくれてるって判るから。
「あいつはおまえの担当だからな、この騒ぎがおさまるまでは仕方がないだろう。だけど、これだけははっきり約束しろ。…シュウにはぜったいに近づくな」
シュウの名前を出した瞬間、リョウは今までとは比べ物にならないくらい、目に強い表情を浮かべた。
「え? …シュウ?」
「ああ、あいつだけは許さない。…あいつにだけは渡したくない」
そのとき、リョウは再びあたしを引き寄せて、その腕に抱きしめた。――その瞬間に気づいたの。リョウはあたしを命の巫女の身代わりにすることに決めたんだ、って。3人の間にどんないきさつがあったのかあたしは知らない。でもきっと、リョウはここへ来る以前から既に命の巫女のことを諦めていて、今、そっくりな顔をしたあたしを恋人の代わりにすることに決めたんだ。
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