「あのなあ。こんなところでそんなことしてるなよ。独り身には目の毒なんだけど。それとも、オレたちに見せ付けるつもりだったのか?」
そのタキの一言は、十分に場を和ませる効果があったみたい。あたしはちょっと恥ずかしくてリョウのうしろに隠れてしまったけど、リョウは余裕が出てきたように答えたの。
「ああ、悪かった。…続きは見えないところでやることにするよ」
「続き、って。…呆れたヤツだな。もうじき予言の時刻だってのに何のんきなこと言ってるんだよ。祈りの巫女だって迷惑だろ?」
「すぐに戻る。それまで2人に逃げ道の説明でもしててくれ」
そう言ってリョウはあたしの背中を押して、あたしとタキがさっき話していた森の中へと歩いていった。うしろではタキの「今あの2人が行った方が逃げ道だよ」なんて声が聞こえてくる。リョウは無視して、森に入るころにはあたしの背中を押すのもやめて、ずっと先に立ってい歩いていったんだ。やがて不意に立ち止まると、少し辺りを見回しながらつぶやいたの。
「このあたりか…」
「え?」
「さっき、タキとここで何を話してた」
リョウ、あたしがさっきタキといっしょに森に入ったこと、知ってたの…?
とっさに言葉が出なかった。だって、さっきタキと話していたのはリョウのことだったから。あんなこと、本人のリョウに話せる訳ないよ。あたしがリョウの嘘に気づいてることがリョウに知られてしまう。
あたしが黙り込んでいる間、リョウはちょっと怖い顔をしてあたしを見つめていた。なにか言わなければいけないと思うのに言葉が出てこない。…タキに言われるまでもないよ。あたしって、本当に嘘をつくのに向いてない人間なんだ。
やがて、リョウの方が諦めたように大きく息をついた。
「仕方ねえな。…おまえ、これから人気のないところであいつと2人きりになるな。約束できるか?」
あたしが無心でうなずくと、リョウはほんの少しだけ苦笑いを見せた。
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