「右の騎士の力、って、予言の力のこと? リョウはあの時タキにそれを話したの?」
「そのときにはそこまで具体的な話はしてなかったよ。だけど、オレには思い当たる節があってね。あとから考えてみるとリョウが力を使ってるところをオレはちゃんと見てるんだ。リョウが右の力を持ってるのは間違いないよ」
予言の力は、遠い昔、まだこの村に巫女が3人しかいなかった頃に予言の巫女が持っていた力のこと。その力は神事の巫女の「放つ力」に対して「察する力」と呼ばれていて、今では運命の巫女と神託の巫女が分け合って持っているんだ。あたしにも覚えがあるよ。リョウと2人で西の森の沼へ行ったとき、リョウは沼の水に触れながら、沼にあたしを殺す意思が満ちていることを教えてくれたから。
「リョウに右の力があるのなら、もしかして運命の巫女の力もあるってこと?」
「おそらくあるだろうね。ただ、リョウが運命の巫女の力まで使いこなせているかどうかは疑問だけどね。でも少なくとも神託の巫女の力は自由に使えているよ。オレが見たのはこっちの力の方だ」
あたしが見たのも神託の巫女の力。…思い出した。リョウは時々右手で人の手に触れて何かを考えているように見えたんだ。最初にタキと話したときにもタキの手に触れてたもん。あれもきっと、リョウが右の力を使っていたってことなんだ。
リョウは、あたしの手にも触れた。それはきっとリョウには必要なことだったんだ。それは判っていたけど、あたしの心は複雑だったの。だって、神託の巫女の力をあたしに使ったってことが、リョウがあたしを信じてくれていなかった証拠のように思えたから。
「…タキ、リョウの嘘を守ってくれてありがとう。こんなことをしてもタキが得することなんてなにもないのに」
あたしがそう言って振り仰ぐと、タキはちょっと苦笑いを浮かべた。
「得することはないけどね。でも別に、君やリョウのためを考えてって訳でもないんだ。…オレ自身はかなり卑怯な手を使ってると自分でも思うよ」
そのタキの言葉の意味はあたしには判らなかった。だから沈黙しただけで聞き流す。
「祈りの巫女、この嘘は遠からず明るみに出る運命にある。その覚悟だけは君もリョウもしておくべきだよ」
――判ってる。その時がリョウがあたしから離れていく時なんだ、ってことも。
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