「祈りの巫女、さっきも言ったように、オレはただ真実を知りたかっただけなんだ」
 不意に大きく息をついたあと、そうタキは話し始めた。
「君が言うとおり、オレには君からリョウを奪う権利なんかない。君とリョウの嘘を暴いて2人を傷つける権利もない。だから、今ここでこんな風に君を追いつめる気もなかったんだ。…すまなかった、祈りの巫女。約束するよ。このことは誰にも言わない、って」
 その瞬間、あたしはタキの言葉が意味するものを掴みきれなくて、思わず顔を上げてタキをまじまじと見つめてしまったの。そんなあたしの様子がおかしかったのか、タキは少し恥ずかしそうにも見える微笑を浮かべたんだ。
「リョウはずっとこの村にいた。1度死にかけたショックで過去の記憶を失ったけど、祈りの巫女が幼い頃から一緒に過ごしてきたリョウと何ひとつ変わってない。祈りの巫女の婚約者で右の騎士。だから命の巫女のことはまったく知らないはずだ。――それでいい?」
 タキ、あなたは、あたしの嘘を一緒に守ってくれるの? もしかしてそう言ってくれているの…?
「タキ、それって…」
「はっきり言って、君は嘘をつくのには向いてないよ。自分ひとりで秘密を抱え込むことにもね。根が正直すぎるんだ祈りの巫女は。だから、このまま嘘をつき続けたとしても、いずれすぐにバレるよ。…このことはリョウにも言えることだけど」
「…リョウ…?」
「ああ。オレが今まで見てきた限りでは、リョウもそれほど嘘が得意じゃない。これはたぶん、リョウが村のことを知らないせいもあると思うけど、これまでにもリョウはかなりたくさんのボロを出してるよ。たとえば、右の騎士の力のこととか」
 …そういえば、一昨日タキとリョウがあたしの宿舎で話していたとき、タキの口からその言葉を聞いた気がする。そのときあたしはシュウがあたしの左の騎士だったことに気を取られて、話の内容までは聞き逃してしまったんだけど。
「リョウは自分に右の力があると言ってたんだ。知っての通り、祈りの巫女の騎士には右の力はない。それを持っているのは命の巫女と彼女の騎士だけなんだ。リョウには祈りの巫女の騎士についての知識はないからね、それをオレに話すことで既に自分の正体をさらけ出していたってことには気づいてなかったんだろうね。…まあ、オレがそれに気づいたのは命の巫女が現われてからだけど」
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