リョウを守りたかった。リョウを守るために、あたしは仮面を被ろうって決心していた。ぜったい、誰にも、リョウの嘘を見破られないようにするんだ、って。…でも、あたしはほんの少し動揺しただけですぐに素顔をさらけ出してしまうくらい、心が弱いんだ。
自分の弱さが恨めしいよ。たった1つの嘘すら守りきれない自分が。
「…祈りの巫女、オレは別に、君を追いつめたかった訳じゃないんだ。…オレはただ真実を知りたかった」
今、タキが真実を暴いても、あたしは幸せにはなれない。真実はあたしからリョウを取り上げてしまうものなんだよタキ。リョウをつなぎとめておくためには、あたしはこの嘘を貫き通すしかなかったんだから。
「タキにはあたしからリョウを奪う権利なんかないよ! だって、リョウは命の巫女に惹かれてるんだよ。命の巫女もリョウに惹かれてる。真実を暴いたからっていったいどうなるっていうの? リョウを命の巫女に取られちゃうだけじゃない!」
そう、あたしが半分泣き顔で訴えた次の瞬間、タキはすごく痛そうな表情をした。もしかしたら会話がこんな風になってしまったことをほんの少しだけ後悔していたのかもしれない。
「だったら、嘘をつき通せばリョウは本物のリョウになるとでもいうのか? …ならないよ、祈りの巫女。リョウは命の巫女と同じ世界の人間なんだ。いずれは自分の世界に帰ってしまう人間なんだよ」
――判ってた、そんなこと。今タキに言われるまでもなく。
リョウはこの村の人間じゃない。あたしがリョウの嘘を守ろうとして、たとえ最後まで守り通したとしても、影の脅威が去ればリョウはこの村を捨てて自分の世界へ戻っていくだろう。誰だって生まれた村がいちばんなんだもん。ましてリョウが生まれた村には命の巫女がいるのに、そのすべてを捨ててまでこの村にとどまってくれることなんかありえないよ。
あたしがしていることは、リョウがこの村にいてくれるほんのわずかな間、リョウと命の巫女を引き離しておけるだけに過ぎない。そんなの無駄なことなんだってあたしにも判ってる。でも、たとえほんの少しの間でも、あたしはリョウの傍にいたかったの。
リョウは今、あたしの婚約者として振舞ってくれている。命の巫女の視線を避けてる。リョウの本当の気持ちが命の巫女に注がれているのだとしても、いつかはあたしを見てくれるかもしれないって、そう信じていたかったの。
次へ
扉へ
トップへ