はっきりとは言わない。だけど、タキが言わんとしていることは判るよ。タキは今まであたしとほとんど同じものを見てきた。だから、タキがあたしと同じ結論にたどり着いてもあたり前なんだ。
「ふうん、どこにでもいるのね、リグのような動物って」
「…やっぱり君も気がついてたんだ、祈りの巫女」
 タキは慎重に言葉を選んで、あたしの真意を探ろうとしている。あたしも、頭の中の知恵を総動員して、タキより優位に立とうとしてる。まるで狩人と獣の真剣勝負みたいだった。今、あたしは狩られている獣と同じ。タキの考えが判るまで気を抜くことなんかできない。
「リョウはなにも覚えていないのよ。あたし、リョウに直接訊いたの。「あの2人を知ってるの?」って。リョウは「覚えがない」って言ってた。たぶんタキはリョウがトツカだと言いたいんだと思うけど、もしもリョウがトツカだったらあの2人を知らないとは言わないわ」
 この話は、タキにとっては意外だったみたい。あたしがリョウからそんな言葉を引き出しているとは思ってなかったんだろう。
「…それは本当?」
「こんなこと、嘘を言ってもすぐにバレるもの。タキも直接リョウに訊いてみたらいいわ」
「だとしても! …いや、たとえリョウに記憶がなかったとしても、リョウがシュウや命の巫女と同じ世界からきた人間なのは間違いないよ。同じ服を着て同じものを持ってた。リョウが神殿に現われたのは君が祈りを捧げているときだったし、おそらくシュウたちが来たのも君の祈りが神様に届いたときだ。リョウがトツカだったらすべてつじつまがあう。神殿で君を「ユーナ」と呼んだことも、彼の神託で右の騎士の予言が出てきたことも。――あの時は誰も命の巫女がいるなんて知らなかったんだ。右の騎士の予言が出れば、それはとうぜん祈りの巫女の騎士だと思うよ。でも今は違う。あのリョウは命の巫女の――」
「やめてよ!」
 あたし、思わずタキの声をさえぎっていたの。それ以上聞きたくなかった。…判ってるよ。だからもう言わないで。あの人はあたしのリョウなんだから。あたしが小さな頃からずっと大好きで、秋になったらあたしと結婚してくれる、恋人のリョウなんだから。
 もう、タキに何を隠すこともできなかった。あたしは自分の運命をタキに委ねるしかなかったんだ。
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