カーヤが洗濯に出かけてしまうと、命の巫女はテーブルにあった自分の持ち物を今着ている服のポケットに移した。手のひらに乗るほどの大きさの金属でできたものと、細長い形をした何か。それと、布でできた入れ物のようなものだった。
「それは何?」
「ケータイデンワとボールペンとオサイフ。でもこの村で使えそうなものはないわね。しいて言えばボールペンくらいかな」
「ボールペン? それは何をするものなの?」
「文字を書くの。…この紙でよければ書いて見せるけど」
 命の巫女が指差したのは、あたしが昨日ポケットに入れて、そのまま忘れていた怪我人のリストだった。カーヤが出しててくれなかったら持っていくのを忘れるところだったよ。あたしがその紙を広げると、命の巫女はまじまじとその紙を見つめたの。
「…不思議な文字。話し言葉はあたしたちとほとんど同じなのに文字は違うんだ。これには何が書いてあるの?」
「人の名前よ。あたしが祈るときに必要なの。この紙でかまわないわ。書いて見せて」
「それじゃ、これがあたしの名前」
 そう言って命の巫女が書いた文字は、あたしたちが使っている文字よりも少し複雑な形をしていたの。…この文字、見覚えがある気がする。そう、今から1400年以上前に使われていた古代文字に似てるんだ。
「筆よりも細い線が書けるでしょう? それに、墨を持ち歩かなくていいから便利なの」
「もっと書いて見せて。シュウの名前はどう書くの?」
「シュウの名前は…」
 そう言いながら命の巫女が書いてくれた文字を見て、あたしは確信した。その中にはあたしが覚えている文字があったから。
「命の巫女、これ、『風』じゃない? それとこれが数字の『1』」
「…まさか、読めるの?」
「ついこの間書庫で見たばかりだから。でも今この文字を使ってる人たちはいないはずなの。1500年も昔の文字なのよ」
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