それまで、あたしはなんとなく2人が未来から来たような気がしていたの。2人が住む国の文明はすごく進んでいて、だからたぶん命の巫女もそう思ってたんだと思う。でも、2人が使っている文字は過去の文字なんだ。あたしはこの新しい事実に、また混乱し始めていたの。
「…んもう、肝心なときに役に立たないんだから」
しばらくの沈黙のあと命の巫女がそうつぶやいた。あたしが顔を上げると、命の巫女は気づいて笑いかけてくれる。
「あたし、難しいことはよく判らないから。こういうことはぜんぶシュウに任せてるんだ。ねえ、祈りの巫女、もしよかったら明日にでもその書庫を見せてもらえないかな」
「ええ、いいわ。命の巫女はもう村人と同じだもの。巫女や神官が書庫に入るのに遠慮はいらないわよ」
「ありがとう。…だったらこのことはそれまで保留ね。よかったら弟さんに会わせて」
命の巫女はもう文字のことは忘れることに決めたみたいで、さっぱりした笑顔であたしに言った。命の巫女って、あんまり細かいことにこだわらない人みたい。それとも、今まで旅をしてくる間にいろいろなことがありすぎたから、そうならなければやってられなかったのかな。その開き直りはうらやましくも思ったけど、その分シュウが大変な思いをしてきたかもしれないって思って、ちょっとだけシュウに同情したんだ。
そろそろリョウが来るはずだし、あまり時間もなかったから、あたしはすぐに命の巫女を連れてオミの部屋へ行った。いきなり入って驚かせてもいけないから、まずはあたしが部屋をノックして開ける。オミはあたしの顔を見ると大げさにがっかりしたような顔をしたの。
「…なんだ、カーヤじゃないのか」
「あたしで悪かったわね。オミ、突然だけど昨日ついた探求の巫女の話は聞いてる?」
「カーヤに聞いてるよ。不気味なくらいユーナにそっくりな女の人と、変な男の人が来たって。それがどうしたの?」
「あんまりめったなことは言わない方がいいわよ。…命の巫女、入ってきて」
そうあたしが声をかけると、会話を聞いてたらしい命の巫女は照れ笑いを浮かべながら顔を出した。途端にオミの顔がこわばる。
「オミ、あなた退屈してるでしょう? しばらくの間命の巫女の話し相手になってあげて。かまわないわよね?」
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