ドアを開けると、まずはローグがベッドに近づいていった。あたしはそのすぐうしろからついていって、だからローグを見つけたときのライの表情から見ることができたの。ライはローグになついているみたいで、ニコニコ笑いながら両手を動かしている。あれほど痛々しかった包帯もほとんど取れていて、あたしは少しだけ気分が明るくなっていた。
「こんにちわ、ライ。今日は機嫌がよさそうだね」
「こんにちわ」
 あたしが声をかけると、今度はあたしを見て笑ってくれたの。でも、怪我をする前と比べるとずいぶん表情が違うのに気づいたんだ。ライの笑顔はどことなくうつろで、ローグが以前言っていた「自分の力ではどうにもならないことを知ってしまった」と言う意味が少しだけ判った気がしたの。
「ライ、あたしのことを覚えてる? ユーナだよ。今までお見舞いに来られなくてごめんね」
 そう言って手を伸ばすと、ライはあたしの指を握ってくれた。…なんだか今まで怖がってた分拍子抜けしたくらい。いったいあたし、何を怖がってたんだろう。ライはまだこんなに小さくて、今はあたしの祈りよりもこうして触れ合うことの方がずっと大切だったのに。
 いつの間にか隣にいたローグがうしろに下がっていて、さっきまでローグがいた場所にはシュウが立っていた。
「ライ、初めまして」
 静かに声をかけたシュウを、ライは振り仰いだ。ちょっと不思議そうにシュウを見つめてる。
「祈りの巫女が言うにはね、オレはライのお兄さんなんだって。オレもまだぜんぜん実感が湧かないんだけど、ライと出会えてすごく嬉しいよ。これからはオレとも仲良くしてくれるかな」
 シュウの伸ばした手に、ライはニコニコしながら両手を差し伸べた。ライにはきっとシュウの言葉の意味は判ってなかったけど、シュウの声に含まれる優しさに反応したんだ。もしも本当のシュウが生きていたら、両親を失ったライはどれほど心強かっただろう。
「やっぱりどことなくシュウに似てるね。…この子、連れて帰れないかな。あたしたちの世界なら傷も治してあげられるかもしれない」
 うしろから覗き込んでそう言った命の巫女の言葉には、誰も答えることができなかった。
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