リョウは、何を考えているか判らない表情をして、まるで探るようにあたしを見つめた。いったいあたしに何を見ようとしてるんだろう。今のあたしには怯えがある。リョウに怯えてるんじゃない。リョウを含めた周りの人すべてに、あたしは怯えている。
 リョウは、命の巫女のことを「覚えがない」って言っていた。――あたしが守らなきゃならないのは、リョウの「嘘」だ。
 それを守りきれなくなったとき、あたしはリョウを失う。
「あいつら、本当におまえが呼んだのか?」
 リョウに訊かれて、あたしはそれまでの間に考え付いたことを話し始めた。
「あたしは命の巫女やシュウを呼ぶための祈りをした覚えはないわ。でも、ずっと村のことを祈り続けていた。神様はね。そういう漠然とした祈りに対しては、それを達成するための手段を勝手に選んでしまうの。だから、もしも命の巫女を呼び寄せることが村を救うために最適だって神様が判断したのだとしたら、あたしが呼んだと言い換えても間違いじゃないかもしれない。シュウが言ってた「不思議な出来事を起こした力の1つ」っていうのは、あたしの祈りを実現しようとした神様の力なのかもしれないわ」
 リョウの顔が、ほんの一瞬苦痛に歪められた。もしもまばたきをしてたとしたら気づかなかったくらい、ほんの一瞬。
「そうか。――だとしても俺には関係ないな」
 ――また、嘘。
「あいつらがどんな力を持ってるかは知らないが、判らないものをあてにしてもしょうがない。俺たちは昨日と同じ作戦でいく」
「うん、判った」
 リョウがどうして命の巫女との関係を隠すのか、あたしにその理由は判らない。だけどそれをリョウに直接訊くことなんかできなかった。ほんとはすごく訊きたかったよ。だって、あたしはリョウのことなら何でも知りたいと思ってるから。
 嘘をつくことがリョウの行動に歯止めをかけていることが、あたしには判っていたの。最初にあたしに言った「覚えがない」という言葉にリョウは縛られてる。この嘘を守ろうとしている間だけ、リョウはあたしのリョウでいてくれる。
 あたしは、あたしの周りにいるすべての人たちから、リョウの嘘を守り通さなければならないんだ。
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