リョウを伴って、あたしは自分の宿舎へと帰ってきていた。宿舎では相変わらずカーヤが忙しく立ち働いていたんだけど、あたしが命の巫女とシュウを連れてないのを見て、明らかにほっとしたような表情で迎えてくれたの。昼食の支度はまだだったから、あたしとリョウは食事ができるのを待ちながらテーブルに座っていた。リョウはカーヤに挨拶したあとはずっと無言で少し機嫌が悪いようにも見えた。
やがて昼食が出来上がると、カーヤは気を利かせてくれたのか、オミの部屋へ食事を届けに行ってしまったの。あたしはリョウの横顔を見つめていて、なかなか食事が進まなかった。
「リョウ、何か考えてるの?」
「…いや、別になにも考えてない」
リョウは言葉では否定したけど、あたしには判った。リョウが今、命の巫女のことを考えてる、って。
――命の巫女と最初に出会った神殿で、シュウがあたしの顔を見てその名前をつぶやいた瞬間に気づいた。同じ場所で目を覚ましたリョウがあの時呼んだのは、あたしの名前じゃなかったんだ、ってこと。
命の巫女はリョウに惹かれている。リョウ、あなたも、命の巫女に惹かれているの…?
「それにしても驚いたわね。探求の巫女が命の巫女だったなんて。…そうか、リョウは命の巫女のことを知らないのよね」
「…」
「命の巫女はね、名前のついた巫女たちの、守護の巫女を除いた4人の巫女の力をすべて持っているの。そのほかにも時間や空間、人の心なんかを操る力も持ってる。だから本当に正しい心を持っていないとその力は扱えないの。命の巫女は、この世の中で1番純粋な心を持った女性なのね」
大きな力を授かった命の巫女は、それだけ大きな責任をも課せられている。…あたしは違った。既に禁忌を犯してしまったあたしは、命の巫女のような純粋な存在ではありえない。
「…あんなにあたしにそっくりなのに、あたしとはぜんぜん違う」
そのときリョウは、初めてあたしを振り返った。
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