命の巫女、それは4人の巫女たちのすべての力を合わせ持って、更に多くの力を持った巫女。その力はあまりに大きすぎるから、この村でもめったに生まれてはこないんだ。彼女が生まれてきたのは大きな災いが村を襲ったときだけで、歴史上にもたったの3人しかいなかった。その命の巫女が探求の巫女その人だったなんて。
それからのみんなのはしゃぎようったらなかった。みんな興奮して口々に何かを言い合っていて、守護の巫女でさえ声が上ずっていたの。すぐに我に返ってみんなをなだめたけど、それでも浮ついた雰囲気はぜんぜん去らなかった。あまりの扱いの違いに命の巫女自身が呆然としてしまったくらい。みんなが興奮していたから、リョウが独り静かに席に座っていたことには、おそらく誰も気づいていなかっただろう。
みんなはもうすぐにでも災厄を退けられるような気分でいたみたいだけど、守護の巫女は命の巫女をどう扱ったらいいのか判らなくなってたようだった。どうにか騒ぎを鎮めたあと、改めて命の巫女を歓迎する言葉を述べてから、議題を変えてしまったの。運命の巫女は、影が今日も襲ってくる予言をしている。時刻は日没よりも少し前で、あたしはその時間また村で祈りを捧げることになってるんだ。
「――狩人たちの配置についてはリョウに一任するわ。かがり火などの準備は昨日と同じでいいかしら」
「ああ、大丈夫だ。今回は獣鬼の死骸が柵の役目をするだろうから、前回と同じようなタイプの獣鬼なら十分撃退できるだろう。狩人も昨日の戦いでずいぶん慣れたはずだ」
「それは頼もしいわ。…祈りの巫女、あなたも昨日と同じように祈りを捧げて。影の攻撃にはくれぐれも注意するのよ」
「ええ、判ったわ」
探求の巫女が命の巫女だってことが判ってからも、守護の巫女は会議を淡々と進めていって、彼女の存在を頭数には入れていないみたいだった。みんなも不自然さを感じていたようだったけど、不思議に思いながらも会議の進行を妨げることはしなかったんだ。村人の避難や、物資について、そのほかさまざまなことが守護の巫女によって指示されていく。最初に守護の巫女が言ったとおり今日の議題は多くて、すべてをこなさないうちにお昼になってしまったから、そこで守護の巫女はいったん休憩を言い渡したの。
会議が中断すると、あっという間に命の巫女とシュウはみんなに囲まれてしまった。守護の巫女は命の巫女を昼食に誘ったみたい。あたしも誘われそうな予感がしたから、席を立ったリョウに近づいて、そそくさと長老宿舎をあとにしていた。
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