「神託の巫女、それはどういうこと? 彼女が探求の巫女じゃないって…」
「ちょっと待って!」
神託の巫女は守護の巫女の言葉をさえぎると、再び驚く探求の巫女の手を握り締めた。それからの神託の巫女の緊張感はシュウのときとは格段に違っていた。もちろん見守るあたしたちも緊張でいっぱいだったの。そんな空気を感じたんだろう、探求の巫女の表情も硬くこわばっていた。
探求の巫女の手を握っている間、神託の巫女は何度も表情を変えた。それも今まであたしが見てきた神託とはずいぶん違っていた。やがて神託の巫女が目を開けると、守護の巫女はとうとう席を立って2人に近づいていったんだ。
「教えて神託の巫女。探求の巫女じゃないならいったい彼女はなんなの?」
神託の巫女は振り返って守護の巫女を一瞥しただけで、その問いには答えずに探求の巫女を見つめる。その目はさっきよりもずっと穏やかだったから、探求の巫女も少しだけ表情を緩めていた。
「…あなたは、自分の名前を知っているの? 知っているのならどうして最初にそう名乗ってくれなかったの? …今、あなたには判っているはずよ。だってあなたは私と同じ力を持ってる」
神託の巫女の言葉に、周りで見守るみんなが息を呑んだ。なぜなら、ここにいるみんなは知ってるから。神託の巫女と同じ力を持っている巫女って――
「その名前がこの村でどれだけ大切なものか、それが判らなかったの? だからあなたは偽りの名前を名乗ったの?」
「偽りなんかじゃないわ。だってあたしはずっと探求の巫女って呼ばれてたもん。おまえは道を求める探求の巫女なんだ、って」
「そう、ではその名前も本当の名前なのね。…安心して。あなたが辿ってきた道は間違っていないわ。ここがあなたの求めてきた場所。だから本当の名前を名乗って」
「――道を求め、やがて辿り着いたとき、探求の巫女は命の巫女になる――」
そう答えたのは、探求の巫女ではなくてシュウだった。
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