「……どうして?」
 達也はあまり表情がない。
 笑ったり、もしかしたら怒ったりもするけれど、あたしには達也の表情がわからない。
「お前が、俺の娘だからだ」
「パパは達也の息子だわ」
「あいつは、俺を殺せない」
 あたしは、何も知らない。
 達也の言うことが理解できない。
 たぶん、あたしは達也と会話できるレベルの人間じゃないんだ。
 あたしが大人になれば、達也の言うことが理解できるようになるのかしら。
「ごめんなさい。達也の言っていることが判らない。ヒントだけでも、教えて」
 あたしが言うと、達也は笑った。
「俺は、お前が俺の娘だから愛している。あいつが俺の息子なら、俺はあいつを愛するだろう。だけど、あいつは俺を殺そうとしている。俺を殺せるだけの力があれば、俺はあいつを愛する。あいつには、俺を殺せるだけの力がねえんだ」
 達也は、死にたいの?
 なぜ?
「パパは中途半端なの?」
「ああ、そういうことかな」
「達也を殺せる人を、達也は好きになるの?」
「俺を殺せる人間には価値がある。ミオ、お前は俺を殺せるか?」
 殺せない。
 心の中で、あたしは即答していた。

「ミオ、お前は、俺を殺せる人間になれ」
 達也を殺せる人間になることは、価値のある人間になること。
「はい、達也」
 パパにできないことが、あたしにできるのだろうか。

「アフル、どうして達也は死にたいの?」
「普通の人が不老不死の薬を手に入れたいと願うのと、同じ理由だと思いますよ」
 人間が不老不死でいることは、ぜったいにありえない。
「達也は、死ねないの?」

 達也と話していると、疑問ばかりがたまってゆく。

「ミオは葛城達也を殺したいと思うの?」
「サヤカは?」
「できることなら殺したいわ。まさるを殺したのは、葛城達也だもの」
「あたしは、わからない」
 達也を好きになると約束した。
 達也を殺せる人間になると約束した。
 どうして、好きな人を殺さなければならないの?
「葛城達也を好きなの?」
 あたしはもう1度、同じ言葉で答えることしか、できなかった。

 人を好きになるって、どういうこと?
 あたしはパパを好き。
 あたしはサヤカを好き。
 アフルのことは、たぶん好きになれる。
 達也は……わからない。

 達也のことがわかったら、あたしは達也を好きになれる?
 でも、あたしはパパのことをよく知らない。
 出会ったばかりのサヤカのことも、全部知らない。
 知らない人を好きになることもできる。
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