「達也、パパの事を教えてくれる?」
 パパのことを話すと、達也はいつも、少しだけ不機嫌になる。
「俺はあいつのことを知らねえ。俺が知ってるあいつは、型にはまった正義感を振り回す子供だ」
 あたしには、達也の方が子供に見えるのに。
「アフルに聞いてもいい? パパのことと、ママのこと」
「何でも聞くといい」
 その時初めて、達也はあたしを抱きしめた。

 心臓が止まりそうだった。
「俺は、ミオを愛している」
 耳元で達也がつぶやく。
 声が、すごく切ない。
「俺の娘だ」
 2つだけ、わかった。

 人を好きになることと、その人を知っていることは関係ない。
 知らない人を好きになることもある。

 そして、自分を好きになってくれる人を、好きになる。


 あたしは、達也を好きになれる。

「あたしは、達也の娘なの?」
 本当は怖かった。
 だって、あたしは達也のこと、あまりに知らなかったから。
「どうして?」
 あたしの頭をなでながら、達也は言った。
「お前が、お前の母親の娘だからだ」

 達也はもしかしたら、女性としてのママを愛していたのかもしれない。
 だけど、今のあたしには、たぶんわからないこと。
「あたしのパパはパパだけだわ。……でも、達也のことも、パパだと思うわ」
 達也は、あたしを見て、まるで子供のように笑った。

 その笑顔は、ほんの少しだけ、パパに似ていた。

―― 了 ――

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