パパに会いたい。
 パパならきっと、あたしの疑問に答えてくれるから。
「まさるが死んだときね、あたし、ものすごく泣いたの」
 サヤカが好きだったまさるのことを、あたしは知らない。
 あたしのパパよりも少し年下くらいで、足の怪我で苦しんで、自殺した。
 すごくやさしい人だったって、サヤカは言ったけど。
「最初はね、まさるが自殺したのが悔しかった。あたしのために生きることより、苦しみから逃げるために死んだんだ、って。でも、時間が経って、今のほうがもっと悔しいと思うの。あたしが子供だったこと」
 涙を見せないけれど、サヤカが泣いていること、あたしにはわかった。
「まさるはいろいろなことをあたしに話したかったと思う。だけど、あたしは子供で判らないから、まさるはあたしに話せなかった。今も、これからも、聞きたいことがたくさんあるのに。……あの時のあたしが今よりずっと大人で、まさるの話すことが理解できてたらよかった。大人だったらよかったの」
 今、パパが死んだら、サヤカと同じようにあたしも後悔するのだろう。
「ミオ、早く大人になろうね」

 平和と幸せは違う。
 平和といい国も、少し違う。
 でも、平和じゃない国はいい国じゃない。
 平和な国でも、いい国じゃない国はある。

「アフルは達也の何が好きなの?」
「何が、というのはありません。傍に仕えていることが幸せなだけです。あるとすれば、僕を幸せにしてくれるところ、ということでしょうか」
 幸せ、って、何?

 あたしが達也の部屋を訪れると、必ず窓枠に抱き上げられた。
 この人はいったいどんな人なんだろう。
 どうしてアフルは幸せなんだろう。
「父親が心配か?」
 あたしはうなずいた。
「お前の父親は死なねえ。お前は必ず父親に会える。だから心配するな」
「……本当?」
「約束する」
 人の命なんて判らない。
 達也が約束してくれても、もう1度会えるときまでパパが生きてるかどうかなんて、判らない。
「100パーセント間違いない。俺が死なせはしない」
「達也は、パパを好きなの?」
「あいつのことは判らない。俺は、お前を愛している」
 達也って、どんな人?
次へ
扉へ
トップへ