「入れ」
 中から聞こえたのは、葛城達也の声だった。
 葛城達也の声は、あたしは絶対に聞き間違えない。
 なぜなら、その声はとてもパパに似ていて、でもパパとはぜんぜん違っていたから。
 ドアを開けると、広い窓の縁に腰掛けた、長身の男の人を見つけたのだ。

 葛城達也。
 パパに似ていて、でも、ぜんぜんパパに似ていない人。
 あたしの心臓はドキドキした。
 パパじゃないのに、この人は、パパが1番嫌いな人なのに。
「ミオか?」
 あたしを見つめて、葛城達也は言った。
「はい、そうです」
 声が震えた。
 今のあたしは、きっと、葛城達也には取るに足らない、本当にちっぽけな女の子に見えたことだろう。
「ここに来い」
「はい」
 窓辺までの距離はとても遠かった。
 あたしは、震える足をしかった。
 こんなことで怯んだら、パパに合わせる顔がないもの。
 近くで見上げると、葛城達也は、あたしのパパにそっくりだった。
 髪の長さ以外、ほとんど違わない。
 綺麗な人。

「お前の父親は俺の息子だ。だから、お前は俺の孫になる。どうしてお前だけが特別なのか、判るな」
 外見は、パパとまったく同じに見える。
 パパも他の人よりは若く見える方だけど、葛城達也はあたしのおじいさんなのに、見かけは年の離れたお兄さんみたい。
「はい、判ります」
 葛城達也はあたしを見ていた。
 見られていると恥ずかしくなるくらい、何もかも見通すような強い視線で。
 逆らえば、この人はあたしを殺す。
「俺のことは達也と呼べ。お前の母親もそう呼んでいた」
 そう言って、葛城達也は目を伏せた。
 あたしは、ママのことは知らない。
 知っているのは、ママが葛城達也の養女だったということだけ。
「はい、判りました」
「俺のことは、父親だと思え」
「はい」
「毎日この時間に来い」
「はい、……達也」
 恐る恐るあたしが口にした名前をきいて、達也は驚いたように顔を上げた。
「俺は……お前のことを娘だと思う」
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