葛城達也はあたしにとって、顔の見えない独裁者だった。
大好きなパパが、世の中で1番嫌っている人。
東京中の人たちが、1番怒っていて、怖がっている人。
東京以外の、日本中の人が、尊敬して頼っている人。
その葛城達也は、あたしとパパとを引き離した。
あたしや、サヤカや、その他の女の人たちを人質にして、パパやコロニーの仲間を再び東京に押し込めた。
パパたちが革命を成功させない限り、あたしたちは誰もコロニーの仲間に会うことはできない。
サヤカも、大好きなボスに会うことができない。
顔の見えない独裁者。
あたしが葛城達也を見たのは、ほんの一瞬だけだった。
遠目で、スモッグで霞んでいて、とても顔を見られるような状況じゃなかった。
だから、正直、怖かった。
今日、葛城達也があたしひとりだけを部屋に呼んでいると聞いたときは。
その建物は、いかにも頑丈そうで、威厳がある。
あたしたちが監禁されている部屋は、電子ロック式で、外に出ることはできない。
あたしが葛城達也と会うことに決めたのは、そうすれば自由に部屋の外を歩いていいと言われたから。
他の人たちは無理だけど、あたしだけ、特別に出てもいいと言っていたから。
監禁されている40人のうち、たった1人だけでも外に出られたら、何かが変わるかもしれないと思ったから。
「ミオ、気をつけて。絶対に気を許してはだめよ」
サヤカはあたしを心配してくれる。
まだ、出会ってほんの少しだったけど、あたしのことを絶対に疑うことのない、強い心を持った親友。
迎えに来た、パパと同世代の男の人に促されて、あたしはサヤカとの共同部屋を出た。
ドアの外で、あたしは自分の部屋のカードキーを渡された。
「初めまして。僕はアフルストーンといいます。アフルと呼んでください」
アフルの声は少しかすれ気味で、でもとてもやさしく響いた。
「外国の人なんですか?」
「よく言われます。でも、僕はれっきとした日本人ですよ。皇帝の配下の者は、皆こんな名前をもっているんです」
皇帝は、葛城達也のこと。
葛城達也は今、皇帝を名乗って、日本の支配者におさまっているのだ。
「これから僕があなたのことをお世話します。あなたをミオとお呼びしてもいいですか?」
どうしてこんな人が葛城達也の言うことをきいているのかしら。
やさしそうで、頭がよさそうで、とても冷血漢の子分には見えないのに。
「ええ、いいわ。仲良くしましょう」
アフルは微笑んで、廊下を歩き出した。
葛城達也の部屋。
ドアを開けるのが怖かった。
「僕はこれ以上お供できません。どうぞご自分で開けてお入りください」
アフルはそう言って、あたしを1人にした。
この部屋のドアはカードキーじゃなかった。
あたしは、ドアをノックした。
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