逸実が言葉を切ったのは、ドアの外が騒がしくなったから。それだけで、もう誰が来たのか判っちまった。ノックの音にオレが返事をすると、開いたドアの向こうで、紙吹雪と炸裂するクラッカー。
「釜本一郎君、おめでとう!」
そして盛大なる拍手。い、いったい何なんだこれは。
ひとしきり拍手と歓声が静まると、オレの剣道部の部長、悪友の坂敷が、咳払いを1つした。
「はい静かに静かに。それではまず、釜本君にお見舞の言葉を。――腕の怪我は大丈夫かい? 災難だったな」
突然の出来事のあまりの異常さに、オレは絶句していた。そして、逸実も目を丸くしている。お見舞に来たんだったら、何で第一声がおめでとうなんだよ。
「そして、祝の言葉。童貞脱出おめでとう! これで君も大人の仲間入りだ!」
そしてまた、拍手と歓声。お、おい、今なんて言った!
「そして最後に質問。なあ、どうだった? 感想を述べよ」
部長はオレの怪我をしていない左肩をつっつく。童貞が何だって? こいつは一体どういう事態なんだ。
「おいお前、何言ってるんだ?」
まぬけだオレ。何でこんな質問しなきゃなんないんだ。部長、人差指立てて、チッチッチッなんてポーズを作る。そのあとオレの肩に手を回して、ベッドにこしかけた。
次へ
扉へ
トップへ